恋屑(コイクズ)-短編集-
今日も最後の授業を受けながら窓から外を見ると彼の黒い車が見える。
先生にバレないようにこっそり携帯を開くと彼からメールがきている。
すぐ出てきてね
件名なしで一言だけのそっけないメール。彼からのメールにはいつも絵文字も顔文字もない。
でもこれだけで嬉しくなるなる私は末期かもしれない。
チャイムがなり授業が終わるとすぐに帰る準備をして彼の車に。
来ないでって自分から言ったくせに本当に来てくれないと寂しく感じる単純な私。
だから今みたいに迎えに来てくれると彼のもとへすぐにいっちゃうの。
私が犬だったら多分ものすごい勢いでしっぽ振ってるんだと思う。本当に単純。
「だからもう来ないでいいって言ったじゃん」
なのに喜んでるくせに口では可愛いげのないことを言ってしまう。ありがとうの一言もでてこない。
「交通費が浮いてラッキーって思えばいいじゃんか。……真っ直ぐ家まで?」
いくら私が嫌みな言い方したって彼は嫌な顔一つしないで笑ってくれる。
こんな態度元カレの前でとったとしたら即ケンカになってたのに。
「今日はバイトだから…」
彼の方は見ずに答える私。本当はバイトまでまだ時間があるけど家よりもバイト先の方が学校から遠いから。
その分彼の車に乗っていられる時間が長いかなって。ほんの数分しか変わらないけど。それでも、って考えてしまう。
「わかったよ。でもその前に…」
むぎゅっと彼が私の右頬を軽くつねる。え?急に何?
びっくりして彼の方を見ると楽しそうに笑っている。
「…え?何してんの?」
「んー?なんか不機嫌そうな顔してるから。かわいい顔が台無しだよ。」
そう言い私の頭を撫でると出発しまーす、と言い車を運転する彼。
私は多分真っ赤な顔で下を向き何の反応もできない。
蓋をして鍵までかけたはずの彼への気持ちが簡単に開いてしまいそうになる。
あーあ。今日も彼に私の気持ちは振り回される。
あとちょっと。卒業して彼に見合う大人の女性になってから。
【黒い車】
彼は明日もまたあの車に乗って私を迎えに来てくれる。
-END-