ジュリアン・ドール
デッサンのスケッチが終わると、ジョウは速急に余所行きの青いス-ツに着替え、“ジュリアン・ド-ル”の店主である祖父ダルディに声をかけ、颯爽とミサの手を引き、ミサが待たせてあったドルガン家の馬車へと乗り込んだ。


「遅くなった事はきちんと詫びるのじゃぞ。・・・・・それから、サロン殿にはくれぐれもよろしく伝えといてくれ・・・・・」


出発寸前の馬車に向かって、白ひげを顎に生やした腰曲がりの店主、ダルディが嗄れた声で叫んだ。


「ああ。じゃあ行って来る」


馬車の窓から顔を出して、ジョウがそれに返事を返すと、鞭の音と共に馬は高らかに嘶き馬車を走らせた。



カランコロン・・・・・・カラン。
扉の上の方で鈴が鳴る。



ダルディは、曲がった腰へ手をやりながら、ゆっくりと歩き店へ戻る。



最近は店をジョウに任せきりにしていた。


ジョウはなかなか商売熱心で、ダルダの東部に在る街、エルモアの学校に通っていた事もあり、そこで学んできた知識を活かし、最近では人形店と一緒に骨董品まで扱い始めている。



 骨董品の品質や商品価値を観抜く素晴らしい眼力を、どうやらジョウは持っているらしい。また、それだけではなく、商売人として大切な熱心さも備え、得意の客も確実に増やしていた。



ダルディがのんびりとやっていた時よりかは、生活の方もかなり豊かになっていた。


ダルディも、この目の黒いうちに出来るだけ数多くの人形を作り、この店の商品に残しておこうと、日々人形作りに明け暮れていた。



店の奥の机の上にはジョウが散らかしたままに残して行った紙とペンが無造作に置かれている。


そして、仕上げられたばかりの黄金色の髪の人形がそこに寝かされていた。


ダルディはその人形をそっと手に取り、悪くなりかけた自分の目の前まで持ち上げ、その顔を覗いた。



しばしの間、ダルディはその顔を覗いていたが、やがて、ふう……と、肩で息をつくと、今度は人形のイメ-ジをデッサンした一枚の紙を持ち、今度はそれを目の前に持ち上げた。

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