ジュリアン・ドール
『そんな事きいてどうする?』

『ハーリー、どうしてだ?以前は自慢げに話してくれたじゃないか』

未だに慣れぬこの城での生活に疲れていたのか、彼は何やら寂しげな顔で訴えてくる。

『君には既に、エルミラーラという立派な妻がいるじゃないか。あいつは極度なヤキモチやきでね、君に悪気がなくても、君が他の娘の話をしているなんて知ったら・・・・・、拗ねた時のあいつは私でさえ手に負えない。それにあいつは何故か地獄耳なんだ、勘弁してほしい』


その時だった。



『・・・・・!』


そらみろ、こういうことになってしまう!という事態が彼の身に起きた。



『ローレン!どうした、大丈夫か?』

『・・・・・っ痛!だ、大丈夫だ』

『し、しかし』



私はローレンの身体を心配した。エルミラーラは、ローレンの記憶からジュリアンの記憶の全てを消し去ってしまったから、それを思い出そうとすると、脳に強く負担がかかってしまい、こうなるんだと、知っていたから。


『時々、考え事をして、何かを思い出そうとするとこうなるんだ。私は病気なのだろうか?』

『大丈夫だ、何も考えずに休んだ方がいい。そうすれば必ず楽になる。必ず!』

『ああ、そうするよ』


その時はそれですんだが・・・・・。


ローレンは日に日に、気がおかしくなっていった。その理由は、彼は昔を思い出した訳ではなかった。決して――。


それは、新しい恋をしたせいだろう。
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