ジュリアン・ドール
彼の実家は人形店を経営していて、代々あの人形“ジュリアン”を守り続けてきたらしい。そして、彼自身も人形師として腕を上げ、店の後を継ぐつもりでいるらしい。


今生では、エルミラーラは“ミサ”、ローレンは“ジョウ”と言う名で、二人は普通に、ごく自然な出会いをし、普通に恋愛をして、あたり前のように結婚を夢見ている仲の良い恋人同志だ。


しかし、運命の皮肉というのは繰り返されるものなのだろうか?


あのジュリアンが、今、目覚め、私の部屋にいるのだ。エルミラーラの呪縛から一時的に解放されて、あの時間に取り残されたまま、ローレンを深く愛するジュリアンが。


今も思い出せば記憶は鮮明だ。誰が見ても狂おしく愛し合っていたローレンとジュリアンの愛は、決して壊れる筈のない確かなものだったのに。


ローレンの生まれ変わり、ジョウは、どうやら今も、潜在意識の底に、ジュリアンを大切にしまいこんでいるらしい。いつも見つめ合っていた彼女の美しい眸の色を忘れてやしないから。


もし、私がジュリアンをあの場所へ連れて行き、二人を出会わせてしまったなら、きっとすぐに再び二人は愛し合ってしまい、魔の力さえもそれを遮ることはできないはずだ。

繰り返す既視感に、いつか必ずジョウは、ジュリアンの事も前世の記憶も取り戻してしまう事だろう。


二人の愛情はそれほどまでに強いものだっただろう・・・きっと・・・・・。


しかし、私には何も知らずに愛し合うミサとジョウを、今更部外者の私が無理に引き裂く権利は無い。


ジュリアンさえいなければ、二人の心は純粋なもので結ばれていると言えるほど、自然な形で愛し合っているのだから。


ジョウが、またジュリアンと出会ってしまった時には、今も続いているエルミラーラの魔力が、再びジョウを苦しめ、言い伝えと同じようにジョウは気が狂い、悲しい幕を下ろしてしまうのだろうか?


あの二人とジュリアンの間に置かれた私の立場は苦しいもので・・・・・、これから私はどうすれば良いのだろうか?


真剣に考え、答を出さなければならない。
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