ジュリアン・ドール
その白い紙には、色付きのペンで簡単にではあるが、女性の姿が美しく描かれている。


見事な黄金色の髪の美しい娘。


真紅の衣装はその黄金色の髪にとても良く似合い、その双眸は深い碧色の・・・・・。



クスッ・・・・・。



ダルディは、つい笑みをこぼしてしまった。



もう・・・・・、ジョウが幼い頃からダルディは気付いていた事だが、ジョウは人形の魅力と言うより、この戸棚の中に閉じ込められている“プリンセス”こと、ジュリアンの魅力に取りつかれているのだろう。



この人形店“ジュリアンド-ル”の名前の由来でもある、“プリンセス”と名札を付けられた人形は、見る者全ての視線を釘付けにさせる魅力を持っている。



それは、どんなポ-ズをとっている理由でもなく、ただ椅子に座ったまま、こちらに微笑みかけているだけだというのに、人形などには全く興味のない者が見ても、ハッとしてしまう程の美しさと、どんな人形にもないような存在感で、まるで、その魔性の微笑みに呪縛をかけられるように、人々はその人形の魅力に取りつかれてしまう。



さまざまな言い伝えを持つこの人形は、七百年もの長い間、時には人手に渡りながらも、遠い先祖から守られていた物とは思えない程、真新しい人形のままだ。



作りは、とても細いところまで手の行き届いた、凝った細工をしていて、髪の毛などは一本一本に気を配り、まるで繊維のように細い黄金色の絹糸が植えつけられ、眩く透けるような黄金の髪が頭の上でギリリと結い上げられている。


その頭には、その柔らかそうな黄金の絹糸で出来た髪によく映える、身に纏う衣装と同じ布地で作られた、目の覚めるような鮮やかな真紅の大振りのリボンが結ばれている。


いつでもこちらに向けられた頑なな視線は、我が儘そうだが、そのくせ嫌みはなく、見る角度によっては、甘え上手に思わせる、不惑な上目使いの愛敬的な双眸にも見え、誇り高き真っ直ぐな視線にも見え、かつてのダルターニ王国の姫君という名に賭けても相応しい、上品な微笑を強調してもいた。

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