ジュリアン・ドール
『ミューシャンの館=ローレンの家・・・・・、=ジョウの家・・・・・は、=ダルタ-ニの離宮=ジュリアンの実家で、=人形店、違うな。もとい、ミューシャンの館=ベルシナのレストラン“舞踏会”=俺の職場。げげっっっ!!やばい!』


やっと思考がまともになったと思った時の彼の慌てぶりは、ダルターニ王国の第一王子と呼ばれていた頃の彼をよく知っているジュリアンさえ、目を丸くしてしまうほどだった。



「い~っ!今、何時だぁ~っ!しっ仕事の時間が!」

ハーリーは、慌ててベッドから飛び起き、あっという間に、すっかり目を覚ました。



枕元の時計を掴み取り、急いで時間を確認するが、余りにも絶望的な時間に、何度も瞬きをしては、時計を見ていた。


 ガーン!

「“夕の中の刻”が終わる・・・・・。し、信じられない、遅刻だ~!」


これも“一国の王子”という立場から逃れて、違う生活を見つけたハーリーの、意外な一面なのだろうと思えたジュリアンは、クスクス笑いながら、ハーリーに気を使っていた。


「疲れているのだったら、一日位ゆっくりしてらしてもいいじゃない」

「それが・・・そうはいかないんだよ。ローレンの口ききで仕事させてもらっていたあの時とは訳が違うんだ。今はとても時間に厳しくてね。時間厳守、遅刻厳禁、休むなんてもっての他だよ」


ハーリーは急いで櫛で髪を梳き、洗面場へ行って、鏡と向かい合う。



「ふぅ~ん・・・・・そうなの」


不思議そうに返事を返すジュリアン。


「ああ、そうなの。だからいってくるよ」


「いいなぁ・・・私も、お館に行きたい」



ハーリーは、顔中に石けんをつけながら、その真っ白な顔でジュリアンを見た。


ジュリアンは、場所を開けられたハーリーのベッドの上に腰をかけ、痛々しく包帯を巻かれた自分の足を見ながら、寂しそうに俯いていた。



「・・・な、何・・・・・言ってんだ?駄目だ、駄目だ!」



 ハーリーは慌てて返事を返す。



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