ジュリアン・ドール

「あ～あ、店員が館内を駆けるなんて行儀が悪いですね。仮にもここは“舞踏会”なんですよ、もっと自覚を持ってほしいですね、本当に･･･」


フレアーが、こちらへ急いで駆けてくるハーリーを見て、半分飽きれた声で独り言を言っている。



「遅れてすまない、フレアー」


ハーリーは、急いで制服に着替え自分の持ち場に着き、交代の時間になっても現れないハーリーを待っていたバーテンダーに息を切らしながら頭を下げていた。


「おはよう、ハーリー･････お寝坊さん？」

人なつっこい女性の声が、ハーリーに声をかけてきた。


聞き覚えのある懐かしい声、目を引く漆黒の髪。エルミラーラ･･･。そして、隣には親友のローレン。


（可愛い妹、私のエルミラーラ･･･ ）



ずっと一人だったハーリー。

やっと出会えた妹。

今すぐにでも、きつく抱き締めてしまいたい。非常識な行動を取ることはできないという理性さえ失ってしまいそうになる。

全てが、この辺りでは二人といない漆黒の髪が導く、闇色の向こうに見える過去の夢の中の自分が馳せる思いだ。ハーリーにとっては今生の自分自身は彼女とは赤の他人であること。理性を見失ってはいけないと、自分に言い聞かせていた。



（そう･････、自分を失ってはいけない！いけないんだ！）



自分の中にいる前世の自分と、理性である本当の自分自身とを葛藤させて、ハーリーは　挨拶に返事もせず、ただじっと見つめてくる視線にミサは戸惑ってしまい、思わず、自分の頬に手を当て、顔に何か付いているのでは？と確認するが、手で触ってみた限りでは、どうやら何も付いていないようだ。



「どうしたの、私の顔に何か付いていて？」



ミサの声が、過去の自分と葛藤していたハーリーを現実に引き戻し、ハーリーはハッと我に変えることができた。


「えっ？　いえいえ、エルミ･････ミサさん。これはいらっしゃい」


慌てて挨拶に返事を返した。