ジュリアン・ドール
店は比較的すいている時間帯で、ミサとジョウの他はテーブル席に若い男女の客が数組いるだけだ。


「貴方を待っていたのよ、ハーリー。ジョウも私も、もう待ちくたびれちゃったわ。ねぇ、ジョウ?」



ミサは、ジョウも会話の中に入れようと、話をジョウに振ったが、ジョウはいつもの通り人見知りが強く……と、言うより……、先程ハーリーが、黙って何も言わずに自分の恋人を見つめていたのが、ジョウにとっては何よりも気に食わない。とでも言うように、一段とずムッとした表情をして、何も答えようとはしなかった。


「これは本当に申し訳ありませんでした。では、何か一杯ずつご馳走させて下さい」



ハーリーは申し訳無さそうに頭を下げ、もの静かな微笑みでミサに詫びた。



「・・・もう、笑顔でごまかせるなんて、ハンサムの特権よハーリー。では、私にモカスニックを、ジョウにはウォルビアをお願い」

「かしこまりました」



ハーリーは快く返事を返し、背後に並んでいる、それぞれに合ったクリスタルのカクテルグラスを取り出し、目の前に並べていると、フレアーが、交代前の後片づけを終えて挨拶を交わしてきた。


「では、お疲れ様。お嬢様達もごゆっくりどうぞ・・・・・ 」

「お休み、フレアー」

「お疲れ様。今日は本当に申し訳ない」



ミサとハーリーがフレアーの挨拶に答えた時には、フレアーは既に急いで職場を離れて走っていた。


フレアーの慌てて走る後ろ姿に、ジョウはこらえ切れずに、思わず、クスリと笑っていた。


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