ジュリアン・ドール
くりんと長い黄金色の睫に縁取られたその奥で輝くのは、吸い込まれてしまいそうな程の深い深い碧色の宝石――。

良く見ると、その傷一つ無い澄んだ碧色の輝く宝石は、現代ではほとんど見られない幻の宝石“サンディゴル”と判る。


サンディゴルは、遥かな昔にダルタ-ニ王国でのみ発掘されていた、その時代でも、とても数の少ない貴重な宝石だったと知らされている。



軟石故にデリケートなその石は、発掘される時傷が付き易く、幻の宝石と言われる中でも無傷のものは滅多に無い希少な代物で、普通であればその値打ちは想像つかない程の代物であろう。


その、傷ひとつ無い澄んだ輝きのサンディゴルが、彼女の眸にあるのが当たり前のように、違和感もなく自然な輝きを見せている。


今にも動き出すのでは?と思わせる程の活き活きとした輝きとしてー。



その瞬きを忘れてしまった瞼さえも、長い睫と一緒に動き出すのでは?!と…、そんな奇跡が例え今この場で起こったとしても、たぶん誰も驚きはしないだろう。余りにも自然過ぎてー。


いや、誰もがそんな奇跡が起きる事を信じ、見逃すまいと、その双眸から視線を外せない、という方が正しいだろう。


しかし、魅力はそれだけではない。いかにも柔らかそうに見える、艶々としたピンク色の小振りで上品な唇は、これも又、今にも動き出し、何かを語ろうとしている様子で半分開きかけている。


たぶん、その唇が開かれる事があったなら、高く澄んだ甘く美しい声で語り出す事を誰もが想像するだろう。そして、何かを語ろうと開きかけた唇が、微かに笑みを浮かべている為、唇の両端が窪んでいるのが可愛らしさを強く引き立たせている。



そして、形の整った小さな耳とその胸元には、ベルシナの宝石“アレクサンド”が黒々と輝いている。“アレクサンド”はブリリアンカットに刻まれている事によって、その神秘の輝きを引き立たせていた。


しかし、人形の美しさは、それらの宝石の輝きに頼られたものではなく、姫君の真の美しさが輝く宝石の“美”に呑まれる事は決してなかった。


人形のモデルとなった姫君がいかに美しかったのか充分に想像できるが、それでも伝説の姫君の美しさとは、いったいどれほどの美しさなのだろうか?誰もが知りたいと願っていた。
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