ジュリアン・ドール
『美味しい?』


ジュリアンが、そっと訪ねる。


『ああ、甘くて・・・・・でも、さっぱりしているよ。試してみる?』

『ええ・・・・・・』


ジュリアンは、ローレンのカクテルを手に取ろうと、彼から視線を外しグラスへ手を伸ばそうとしていたその時、ローレンは自分から反らされた視線を取り戻そうと、そっと、片手で柔らかい頬に触れ、クイッと、ジュリアンの顔を自分に向けた。


ドキッ!ジュリアンの心臓が大きく脈を打った。

心の底ではローレンを慕っていても、その気持ちを知られること以上に、恥ずかしむ事は彼女にとって他に無かった。

ローレンに頬を抑えられ、顔を反らす事が不可能な儘、ジュリアンは、顔を赤く染めていた。


(いや、私ったら、恥ずかしい!心臓の音までローレンに聞こえてしまうわ)



心の中ではそう叫びながら、ジュリアンは、ローレンと瞳を合わせるのが急に恥ずかしくなって、ギュウ・・・・・ときつく目を瞑ってしまった。

そして、目を瞑った儘その唇に、そっと感じた柔らかい感触が・・・・・。

(・・・・・・!)


ジュリアンは驚きにパッと目を見開いた。


(な、何、今のは?)


混乱の中で、ローレンの唇の柔らかい感触が、ゆっくりジュリアンの唇から離れていく。ジュリアンは、信じられない出来事に驚き、気がついたら溢れんばかりの涙をボロボロろ溢していた。

ローレンはゆっくりと瞳を開けると、自分がジュリアンを泣かせてしまった事に気付き、慌てふためいていた。


『あ、わ、悪かった・・・・・・!私とした事が、こんな大胆な事を!でも、泣かせてしまうつもりではなかったんだ。許してくれ』



(・・・・・・謝るのはなぜだろう、今の口付けの意味は、ただの出来心・・・・・?)


ジュリアンは、そう思うと溢れ出る涙が悲しみのものへと変わっていくのを感じていた。

“恋愛”という文字には、てんで疎いローレンだった為、彼は泣き出してしまったジュリアンを何といってなだめていいのか困り果ててしまっていた。
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