ジュリアン・ドール
ミューシャン家で行われる夜ごとの舞踏会では、誰もがダンスの名手であるローレンのパートナーとして、また、幻のデザイナーとも言われる彼がデザインした衣装を着て、彼とダンスを踊りたいと思っていたはず。

二人が、ダンスフロアーの中央へと手を取り合って歩いて行くと、誰もが驚きの余り、ざわめきが起こる。そして、曲調が切れのいい所を見計らって二人は踊り出した。


曲はワルツへと一転していた。


そこで自由にダンスを踊ったなら、誰もがその広々とした空間で踊る事の解放感に、例え様もない快感を覚え、時間を忘れ、いつまでも踊り続けてしまうほどのパラダイスを舞台に、お互いが初めて手を取り合ったパートナーとは思えないほどの、ピッタリと息の合ったの呼吸で踊っている。


フロアーの所々に建つ、木の蔓を巻つけた白い円柱が、遥か高い頭上彼方の鏡の天井に映る、真っ白な大理石の床を支えてはいるが、それを見上げたなら、そこにはどこまでも澄んだ青い空があるような気持ちになって、二人は二人だけの世界に入り込んでいた。


真っ白なグランドピアノが奏でるメロディーは、まるで、そんな自然が溢れるような爽やかなメロディーだった。


ダンスの名手であるローレンの巧みなリードに引かれ、ドレスのすそを翻して回るジュリアン。踊る二人の姿に目を奪われない者などいるはずがない。


誰もがその時、その二人に目を奪われたように、二人を夢見るように見つめていた。

幾つもの視線のシャワーは、二人を更に興奮させ、ライトを浴びてシャンデリアのガラスの粒のようにキラキラと輝く汗が、ローレンのこめかみから頬を伝って床へと、堕ちて行く。そして、ジュリアンも黄金色の髪を汗で塗れた頬に張りつけて艶やかに踊り、大きく開いた胸元にもキラキラと、汗が輝いている。
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