ジュリアン・ドール
「ジョウ・・・・・、起きて、ジョウ」
彼を現実の世界に引き戻したのは、勿論、手を取って踊っていたジュリアンではない、将来を誓い会ったはずの愛しい恋人、ミサの呼び声だった。
カウンタ-に俯せになって、うたた寝をしていたジョウは目を覚ましても尚、意識の半分は夢の延長の中にいて、ぼや・・・・・っと、半分開いた眸に、ミサの笑顔を写した。
「誰・・・・・、君?」
(なんて、美しい娘なのだろう?珍しい髪の色をしている・・・・・)
ジョウは、自分の恋人を目の前に、寝ぼけながら、そんなことを考えていた。
「まあ、ジョウったら・・・・・・、何を寝ぼけているの?どうやら今日は少し飲み過ぎたようね」
ミサは、ジョウの寝ぼけた言葉に、思わずクスリと笑いながらも、ジョウを心配し気を使っていた。
「ジョウ君、顔が少し赤いようだ」
ミサとひとしきり踊り終えたサロンも、乾いたのどを潤そうと珍しくカウンターに酒を貰いに来ていた。
「先程、レディ・ミサ、貴方のカクテルを一気に飲んでしまいましてね、きっとそのせいでしょう」
ハーリーがミサに訳を話した。
(何の事だ?ハーリー、俺が何かしたのだろうか?・・・・・!)
そして、ハッと目を覚まし、やっと意識を現実に引き戻してジョウは自分がうたた寝をしていた事に気が付いた。
「俺は、眠っていたのか?」
「ほんの十分位です」と、ハーリーは答えた。
「十分・・・・・?」
もっと、もっと長い時間が経っているような気がした。もともと、眠っている時の時の流れと言うのはあやふやなもので、現実での時間の流れとは全く違う。短い時間のようで長い時間が経過していたり、また、その逆で、長い夢を見たと思っても、さほど時間はたっていなかったり・・・・・。
――そう、長い夢を見ていた。とっても懐かしい夢だったような・・・・・、そんな気がするのに、それは一体どんな夢だったのか?目が覚めて、ほんの数秒のうちに全てが空白になってしまったように、夢の中の記憶は深い霧の向こうに消えてしまっていた。