ジュリアン・ドール
一方―――、
こちらは、ジョウとミサを乗せ、ベルシナへと急ぐ馬車―――。
ドルガン家の使用人は、馬の尻をとめどなく鞭で痛めつけ、馬は馬車を無理矢理な速度で走らせている。
馬が口から泡を吹いても不思議ではない程だった。
会員制という珍しいシステムのレストラン“舞踏会”での夕食の時間迄には、まぁ、何とかギリギリ間に合いそうだ。
ふと、ジョウは何かを思い出した。
「ミサ・・・・・」
ジョウは今日の為に用意していた大切な物を忘れたのに気付いた。
「なあに、ジョウ?」
馬車の窓から外を覗くと、すでにそこは、国境であるダルタ-ニ西山脈の谷間を横切り、ベルシナへと渡ってきている途中だと分かる、左右どちらを見ても岩肌が覗いた山に挟まれた風景だった。
進行方向の向こうを見ると、その岩肌の壁も途切れていた。
国境であるそれを越えると、そこはもうベルシナの領域となっているのだが、気付いてすぐに視界は広がり、馬車はベルシナの領域へと入って行った。
遠くにはベルシナ湾が見えて来た。
「どうかしたの?!」
ミサは、窓の外へ目を向けるジョウの顔を覗きながら訊ねたが、ジョウは、『何でもない』と言う笑顔を見せ、横に首を振った。
しかし、ミサはジョウの様子がおかしいことに気付き、その闇色の双眸で、訝しげに彼をじっと見つめていた。
ジョウは、その真っ直な視線の眸と向き合うのをためらいつつ、仕方なく視線を空中へ泳がせながら照れくさそうに言った。
「その…、指輪をね……、家に置いてきてしまったんだ・・・・・」
「指輪?」
「そう、大切な指輪を・・・・・」
ミサは、ジョウが何の事を言っているのか、まるでわかっていない様子。
折角、ジョウが思い切って、今日この日に勇気を出して伝えようと用意しておいたダイヤモンドの指輪。忘れないようにと、一番身近な場所であるはずの作業用の机の引き出しの中に入れておいたのだが、忘れて来たのに気付くと、鍵もついていない引き出しにしまっている事がやけに心配になってきた。
こちらは、ジョウとミサを乗せ、ベルシナへと急ぐ馬車―――。
ドルガン家の使用人は、馬の尻をとめどなく鞭で痛めつけ、馬は馬車を無理矢理な速度で走らせている。
馬が口から泡を吹いても不思議ではない程だった。
会員制という珍しいシステムのレストラン“舞踏会”での夕食の時間迄には、まぁ、何とかギリギリ間に合いそうだ。
ふと、ジョウは何かを思い出した。
「ミサ・・・・・」
ジョウは今日の為に用意していた大切な物を忘れたのに気付いた。
「なあに、ジョウ?」
馬車の窓から外を覗くと、すでにそこは、国境であるダルタ-ニ西山脈の谷間を横切り、ベルシナへと渡ってきている途中だと分かる、左右どちらを見ても岩肌が覗いた山に挟まれた風景だった。
進行方向の向こうを見ると、その岩肌の壁も途切れていた。
国境であるそれを越えると、そこはもうベルシナの領域となっているのだが、気付いてすぐに視界は広がり、馬車はベルシナの領域へと入って行った。
遠くにはベルシナ湾が見えて来た。
「どうかしたの?!」
ミサは、窓の外へ目を向けるジョウの顔を覗きながら訊ねたが、ジョウは、『何でもない』と言う笑顔を見せ、横に首を振った。
しかし、ミサはジョウの様子がおかしいことに気付き、その闇色の双眸で、訝しげに彼をじっと見つめていた。
ジョウは、その真っ直な視線の眸と向き合うのをためらいつつ、仕方なく視線を空中へ泳がせながら照れくさそうに言った。
「その…、指輪をね……、家に置いてきてしまったんだ・・・・・」
「指輪?」
「そう、大切な指輪を・・・・・」
ミサは、ジョウが何の事を言っているのか、まるでわかっていない様子。
折角、ジョウが思い切って、今日この日に勇気を出して伝えようと用意しておいたダイヤモンドの指輪。忘れないようにと、一番身近な場所であるはずの作業用の机の引き出しの中に入れておいたのだが、忘れて来たのに気付くと、鍵もついていない引き出しにしまっている事がやけに心配になってきた。