ジュリアン・ドール
ハーリーにとって、父親としてしか見た事の無い、目の前の“彼”のもう一つの顔を、第三者となって初めて見て、その落ち着いた態度や“彼”が持っている周りに感じる空気、オーラの全てが、やはり普通の人の持っているものとは違う“何か”を感じさせ、やはり偉大な器を持った人だ。ということを改めて感じさせられた。


例え生まれ変わったとしても、本来持っているものは変らないものなのだということを改めて感じた。

だから、“あの方”は何度生まれ変わっても、平民以下に堕ちることはない。こうして、どんな時代でも、人の上に立つ側になるのだ。と――。



その昔の時代にハーリーは、父親に反発し、城を飛び出した事もあったが、愛情を与えてくれない父を憎みながらも、エルストン二十一世を国王として尊敬し、立派な父を誇りに思っていた。だからこそ、よけいに愛情を与えられなかった事に淋しさを感じていたのかも知れない。



「貴方のような名高い音楽家と知り合えて、光栄に思います」

「いえ、こちこそ。ドルガン様は・・・」

「その、“ドルガン様”というのはやめてくれ。私は大した男ではないからね。親しくなった人には“サロン”と、呼んでもらう事にしている」



サロンが謙遜して、いつもの様に自分の事を名前で呼ばせる様に頼むと、ハーリーは改めて呼び直した。



「そうでしたか、では、サロン様は、このレストラン“舞踏会”の一番のお得意様とお聞きしております」と、頭を下げた。



「可愛い娘とのデートだけが、毎日目の回る忙しさの中の、唯一の娯楽なのだよ。私にとって」

「そうですか、肉親のいない私にとっては、とても羨ましいことです」



ハーリーの言葉にサロンは同情したようなしかし、暖かい視線を送って質問した。



「ご家族はいないのですか?」

「ええ、子供の頃に家が焼けてしまいまして、その時に・・・・・」

「そうだったのですか。では、家のミサを義妹と思って、可愛がってやって下さい。あの子も一人っ娘で兄妹に憧れているだろうから。しかし、余り仲良くしてしまうとジョウ君が妬いてしまうだろうけど。あっはっはっはっは・・・・・」


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