ジュリアン・ドール
さすがにサロンは、大切な一人娘の婿になろうとしている男の性格は、よく知り尽くしているようだった。



「ありがとうございます。レディ・ミサはとても素直で可愛らしいお嬢様だと思いますので、これからも宜しくお願いしたいです」



そう言いながら、ハーリーは口元に微笑みを浮かべ、ゆっくりと頭を下げた。





部屋のドアの前で、二人は、この頃の日課であるお休みのキスを交わし、ミサが部屋を離れて行く後ろ姿を、ジョウは、しばらくの間見送っていた。



「それじゃ、お休み」



部屋に戻って一人きりになると、ジョウの耳に、やけにあのピアノの音が耳に纏わり付いてきて、気になって仕方がない。



「そう言えば、あの曲が夢の中で流れていたような気がする・・・・・」



ジョウは神経を集中させ、なんとか夢の内容を思い出そうとしていたが、一度消えてしまった夢の記憶と言うものは簡単に思い出す事などできるはずがない。


しかし、ジョウの脳裏に残っていたものは、人間になった姿のあの人形。



「そうだ、あのオルゴールが鳴る度に、いつも思い描いていた“君”が、夢の中で本当に動き出していた」



不意に、その人形ジュリアンが踊る姿だけがジョウのイメージとして沸いてきた。


艶やかな衣装をまとって、そして・・・・・。 咄嗟に、ジョウは鏡台の引き出しから備えつけの紙とペンを出し、ペンを滑らせるように、その紙に夢の中のジュリアンのイメージを描いてみた。



「そう・・・!こんな衣装を着せたい、と俺は夢の中で思っていたんだ」



夢の内容はわからないが、職業病なのか、こんな事だけはすぐに思い出す事か出来た。



次に作る人形に着せる衣装は、既に決まったようなものだった。
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