ジュリアン・ドール
『君らしいね・・・・・・』

『“ジュリアン”の恋人は、この国の貴族の家柄の育ちで、当時“ミューシャンの館”といわれていたこの場所で、いつも二人は踊ってたって云うわ。

二人で踊り疲れた後は“ジュリアン”も恋人と二人でこうして夜景を見ていたのかしら?現代の夜景は、昔と変わってしまったのかしら・・・・・?』



バルコニーの手すりの向こうに百八十度に広がる色とりどりの美しい夜景が、澄んだ星空の下で煌めいて、二人はウットリと、その場に酔いしれていた。



クスッ・・・・・。


ジョウは、自分の肩に頭を乗せて来たミサの頭を優しく撫でながら、その薄い唇に微かに笑みを浮かべた。



『笑ったわね?』



ミサはジョウの横顔を睨んで、拗ねたふりをする。



『深い意味は無いよ。ミサらしくてロマンチックだなと思っただけだ』



ジョウは黙って横顔を見せたまま、ミサがふくれている事など気にも止めない。


ミサはまるで女性のように美しい、ジョウの横顔に目を奪われていた。


何度となく目を奪われてしまう、ジョウの美しい顔は、それなのに何故か、か弱さを感じさせない凛々しい顔つきをしている。それは、細くつり上がった眉のせいか、視線が真っ直ぐと伸びている眸のせいか・・・・・。


いつも真っ直ぐと伸びているはずのその視線は、しかし、どこに向けられているのか分からない。いつもミサは、その視線を自分へと求め、『こっちを向いて』と、テレパシーを送るように心の中で彼に話しかけている。


その瞳にミサを移したなら・・・・・・ミサは眩暈さえしてしまうだろう。


いつものように。


『――でも、今はそうは思わないの。だって、お姫様が人間になってしまったら、ジョウを奪われてしまうのでは・・・・・って心配だわ。だって、ジョウはいつも“ジュリアン”を真剣な瞳で見つめているんですもの』



いつもジョウの一番の理解者でい続けていたミサが、この時、初めて人形への嫉妬を言葉に表した。いつも思っていた事を、この時だけは、勝手に言葉が口からこぼれてきたようだった。


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