ジュリアン・ドール
ジョウは物思いにふけっていた。
ミサと婚約する前は、異常なまでの父親コンプレックスなミサの事を思い、結婚後はベルシナへ新しい店を出し、ミサの実家のすぐ側に家を持とうとも思ったり、この家を離れることが出来るわけが無いのに・・・と思ったり、日々悩んでいたジョウだが、店を移すという事は、あの人形のあるべき場所を引き払ってしまうことになる。果たして、それが良い事なのだろうか?本能の中でそれを否定する自分がいた。
悪い言い伝えしか残していない、恐ろしい呪いの人形という云われも物心つく頃から聞いてはいたから。
結局、結婚したら、ミサはこの家に嫁いでくる事になったのだから、何の問題もなくクリアになったはずだ。
人形は人手に渡った時に、血塗られた事件を周囲に巻き起こすという云われも・・・、人形は、ジョウの結婚する相手の手に渡ってしまう事になり、ダルディは前金半分も受取っているが、買い取った相手が相手だけに、この家からあの人形が持ち出される事はない。
ジョウにとっては大切な家の宝物でもあり、人形を作っていく上でのアイデアの元になっている鍵でもあるり、その大切な人形を引き取るのは、他でもない、自分の恋人であるミサなのだから、いつでもジョウはその人形を見守る見る事もでき、全く文句は無い筈なのだけれど・・・・・・、本当に大丈夫なのか?と、心の裏にほんの少しの不安はあった。
自分が幸せになりたいからというそれだけの理由で、云われを無視して強引に商談を決めさせてしまうなんて、なんて自分勝手なことだろう?
しかし、貴重な宝石が欲しくてあれを買うのではなく、ミサは純粋にあの人形を気に入っていてくれているのだから、ミサ以上にあの人形を大切にしてくれる主人は他にはいないだろう。とも、思っていた。