ジュリアン・ドール
「何の指輪? 珍しい石なの?」

「・・・・・え?」


ジョウは、やっと照れながらも“指輪”と言う名詞を用いただけで、自分の意思を伝えたと思ったのだが、鈍感なミサには、ジョウの言った事の意味がまったくわかっていない事を知る。


勿論、どんなに鋭い者であろうと、骨董品や宝石類を扱う彼の、そんな単語の一言がプロポーズにつながる言葉だとは思えないだろうが。


ジョウの口から、溜め息がひとつ溢れた。

(“指輪を忘れた”くらいじゃ解る筈も無いか・・・・・そりゃそうだよな・・・・・)


真面目な話題を自分から持ち出すのは、ジョウは、得意な方ではなかった。

こんな時なら、ジョウでなくとも誰でもそうだろうが。しかしジョウは、今日こそ言おうと以前から決心していた。



ジョウは、手にはじっとりと汗を握っていた。


「またお父様のぜいたくなお買い物?・・・・・全く、お父様ったらしょうがないわね!」


思い違いをして勝手にぶつくさと怒っているいるミサの様子を見て、ジョウは肩で深く息をつき、そして頭を抱え込んでしまった。


「ジョウ?どうかしたの?」


ミサは再び様子のおかしいジョウに気付き、頭を抱え俯いたジョウの顔を心配そうに覗き込んだ。


ジョウは、そのままの体制で横に首を振っている。


「いや、何でもないよ」


気分は悪くない・・・・・、でもどうしちゃったのかな?と、ミサは、覗き込んでも頭を抱えた手で見えなくなっているジョウの顔を何とか見よう、と不自然な体制になった。


「ねぇ、ジョウったら、どうしたのよ?」


 その時、不意に馬車が横ゆれを起こした。


「きゃあ!」

「危ない!」


無理な体勢でジョウの顔を覗き込んでいたミサはバランスを崩し、咄嗟にジョウはミサをかばい、彼女を腕の中へと抱きかかえた。


「ほら!きちんと座っていなきゃ危ないじゃないか!」
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