ジュリアン・ドール
際立った人気のパンは、その名前だけが一人歩きしているが、そのパンの製造元の名前や、そのパン屋にもっと沢山ある美味しい元祖的なパンの味を知ったら、人により、やはり元祖が一番旨いと言う者も沢山いる。

ダルディの人形を作る腕前は、云ってしまえば元祖なのかもしれない。俺のは、衣装のデザインやら、パーツの素材だのにこだわっているだけの、我流そのもののような気がする。

そう思って、頭でわかったような事を思ったとしても、それでも俺は“ジュリアン”を作る事をやめる気にもなれない。




――翌朝、身体中がきしんで朝早く目を覚ますと、ジョウは新しい人形に着せる衣装をデッサンしたまま、机に向かったままの態勢で眠りに付いていた事を知る。



「痛・・・たたた・・・・・・」



よくもこんな態勢で眠っていたな、と思うと、夕べはよっぽど酒に酔っていたんだと思う。しかし頭が痛くなるほどではなくて良かった。


それより正装の儘で眠っていたせいか、全く疲れが取れていない。ジョウは無理矢理眠気を覚ますように、両手で自分の頭を掻き乱した。


ルームサービスで簡単に朝食をすますと、すぐに新しいスーツに着替え、出かける準備を整えた時は、丁度、ジョウを迎えにドルガン家から迎えの馬車が付く予定の時間が近づいていた。



(せっかくだから、じいさんに土産でも買っていってやろう)



馬車が車でのほんの少しの時間潰しに“舞踏会”と細い道路を挟んだ隣にある土産店を覗きに行こうと建物の門を出た。


“舞踏会”の建物の脇には、従業員用の小さな門があり、ジョウはそこで立ち止まり道路で左右を見ながら安全の確認をしているふうだったところで、長時間の勤務を終え、制服姿からは考えられないような軽装で家に帰るハーリーと出会った。



「これは、ミスタージョウ!おはようございます」



声のする方を見てみると、夕べの格好とはうって変わったような軽装姿のハーリーがいた。



「君は・・・・・ハーリー?」

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