ジュリアン・ドール
「失礼、このような格好で。正装しているのは仕事でだけです。私はやっと勤務を終え、これから帰って寝るところです。ミスタージョウは、こんなに朝早くどちらへ?」

「俺・・・ 私は・・・・・週末はダルダに帰る事にしているので、此処へ戻って来るのは明日の夕食時になるでしょう」

「そうですか、随分とお忙しいご様子で」

「あ、ああ。どうもダンスが苦手なもので、短気集中で猛特訓を受けているんだ」

「そうだったのですか、大変ですね」

「しかし、貴方がピアノ演奏を引き受けてくれて嬉しいです。昨日お聞かせ頂いたピアノ・・・・・、貴方のピアノを聞いていたら、こんな私でも踊れるような気持ちになりました。貴方の奏でる旋律はとても馴染み易い」

「・・・・・ありがとうございます!」



ハーリーは、ジョウの言葉に心から頭を下げた。ジョウはハーリーに対して好感を持っている訳ではないのに、そう言ってくれたのが本当に嬉しかった。


ジョウとしても、ハーリーは嫌な奴と思いながらも、悪いものは悪い、良いものは良い。と白黒はっきりさせる性格上、彼のピアノの腕だけは認めていた。



「ところで、ミスタージョウ?」



ハーリーが何かを思い出したように訊ねて来た。


その瞬間ジョウは、またハーリーが何か神経に障るような事を言い出すのでは?と、やや俯いた顔をそのままで、茶色の眸の視線だけをハーリーに向けた。ただそれだけなのに、その鋭い視線は十分にハーリーを威嚇していた。



「そ、そんなに怖い顔をしないで下さい。ちょっと聞いてみたい事があっただけですから」

「何か?」



仕方なく、ジョウは、ハーリーの質問に応じる。



「あの・・・・・例の人形の事なのですが、ど、どちらの方がお買い上げに・・・・・?」



ハーリーは、一番気になっていた事をやっとジョウに直接訪ねたのだが・・・・・。



(また、こいつは人形の事を知っている?人形が人の手に渡る事を)



ジョウは、冷たく答えた。



「そんなの貴方には関係の無い事だ」ジョウは、冷たく答えた。
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