ジュリアン・ドール
「確かにそうかも知れないですが、しかし、店のご主人は忘れてしまっているでしょうが、もう三十年も昔に私はあの人形を売約していたので、あの人形が誰かの手に渡ってしまったのが大変残念で・・・・・」

「何?売約・・・・・?」



ジョウは、眉間にシワを寄せて聞き返した。


三十年も昔の約束ならサロンも覚えているかどうか、しかしダルディは今の今迄人形を売ろうと思わなかったのは、その、売約の事を覚えていての事だったのだろうか?


だが今更そんな事を言われても困る、ジョウが生まれてくるよりも昔の約束など、既に時効だ。それに、あの人形はまだあの店にある。

人形のある棚の鍵が解除され、あの扉から“それ”が取り出されるのは、ジョウとミサの結婚披露パーティーの時なのだから。



「あの人形はまだあの店にある!」ジョウは、不機嫌そうな顔で答えた。


「まさか、そんなはずはない」ハーリーは思わずムキになっていた。だって、確かに“ジュリアン”は、一時的に彼女を縛りつけていた魔力から解き放たれ、人間の姿に戻って彼の部屋にいるのだから。


「嘘ではない!ただ、取引先はとっくに決まっているが。契約書が交わされて、前金半分を受け取っているだけだ。残り半分は・・・・・」


「だったら、だったら、そのお金を返し、私にその人形を譲って欲しい。代金はすぐに揃う」



ハーリーは、ジョウに食いつくように懇願した。


ジュリアンは、契約書を交わされた事により、主人の手に渡る前に人間の身体に戻ってしまったのだ。しかし、その異変が起きたのはジョウがベルシナへ来てから起きた事なので、ジョウはまだ気付いていないのだろう。



「それは無理だ!人形をお求めになったのは、うちの一番のお得意様、サロン=ゾル=ド=ドルガン様なのだから」

「サ、サロン・・・・・様?」



(父上が?)



「そうだ、それを娘の結婚祝いに残したいとおっしゃっていた。そして、その人形がミサと私の結婚の条件なのだから」

「条件・・・・・?」

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