ジュリアン・ドール
ジョウが腕の中の彼女を叱りつける様に言うと、我が儘に育てられたミサは、反省せず、まるで全てをジョウのせいにするように言い訳をする。


「だって、ジョウがどうしちゃったのかって少し心配になっちゃったんだもの」

「そんな事言ってオレのせいにして!ケガでもしたらどうするんだ?!」

「大丈夫!ジョウがいるから、私の事はジョウが守ってくれるもの」


ミサはそう言いながら、上目遣いで肩をすくめて可愛らしく言い返す。


どんなわがままだろうが、ジョウがこんなに可愛く言い返してしまう自分には弱い事を、彼女は充分によく知っていた。


ジョウは再び溜め息をついたなら、馬車の窓に頬杖をついて、外を眺めながら、逆側の腕で、そっとミサをその肩に抱き寄せた。


ミサはジョウの左側の肩に甘え頭を乗せた。


そんなちょっとした事でさえ、ミサの胸の鼓動は煩いくらいに騒ぎ出し、ミサをその腕に抱き寄せているジョウにまで伝わるほどに、その音は、二人を包む時間の中で響き渡っている。


「大切な指輪だったんだ」

 ジョウは、窓の外を見たまま独り言のように語り出した。

「えっ・・・・・?」


その時ミサは、ジョウの言っている言葉が自分に言っている事なのか、それともただの独り言なのか、まだ解らなかった。


ジョウは、窓の外に向かって勝手に独り言のように話し続ける。


「今日、君の父上に言おうと思っていた。・・・・・そして許してもらえたなら渡そうと思っていたんだ」


なんだ、またいつものお父様のお買い物か商談のことか。私が口を挟む事じゃないわ・・・・・。

と、ミサは思った。そう思うと「ふぅ~ん・・・・・そう・・・」と興味の無さそうな返事を返すだけだった。


外を眺めていたはずのジョウは、そんなそっけのない返事を返し、つまらなそうにしているミサに気付き、ミサに向き直ると、すっかり自信を無くした様子で訊ねた。
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