ジュリアン・ドール
「ふぅ~ん、そう・・・って、やけに冷たくない?」

「だって、二人でいる時は仕事の話はやめてよ、ジョウ。仕事の事なんか忘れて私の事だけ考えていてよ!」


 そしてミサはふてくされたように口を噤んでしまった。


「仕事・・・ってミサ」


結局ジョウの言いたい事は全くミサには伝わっていないのを知り、ミサの鈍感さに飽きれてしまった。


ジョウは頬杖を外し、その手で、自分の膝に置かれたミサの小さな左手をそっと持ち上げ、その親指でミサの薬指を優しく愛撫をした。


ミサは抱き寄せられた腕の中で、黙って自分の手を取るジョウの親指の指先に視線を送っていた。


自分の片手にすっぽりと包み込まれたミサの手は、やけにか弱く小さい。ジョウは、そんなミサの弱々しい小さな手を、力強く胸に抱いた。


「ジョウ、手が・・・痛いわ」

「ご、ごめん」


 ジョウは、慌てて手の力を抜いた。


「どうかしたの?・・・ジョウ、今日は様子が変よ。何かあったの?」


ミサは本気で心配そうに声をかけていたが、自分の肩に抱き寄せたミサの声は、熱い息となってジョウの頬へと吐息をかけている。それは、ミサが胸の鼓動を高鳴られているせいでもあるかも知れなかったが、何よりジョウの一つの決意が、ミサへの愛情の意識を過剰にさせ、ジョウ自身が神経質になっているせいだった。



「心配事でもあるの?それとも仕事の悩み?!」

「心配事?・・・そう・・・かもね・・・・・」


刹那、ミサはジョウの震えを感じた。実際には震えてはいないが、そんな空気を彼女はジョウから感じ取った。


「ジョウ、震えているわ」

「震えてる?」


無口なジョウは、心の悩みを口に出すことはほとんど無い。何を言ってあげれば良いかなど、悩みの種もわからぬミサには不可能な事。


『こんな時、貴方の為に私に出来る事は・・・こんな事だけ』


彼女は彼女なりのやり方で、彼を慰め、愛情を表現した。


「元気を出して。私が傍にいてあげるから」


ジョウの頬にかかる言葉の吐息が、やがて暖かく優しい、愛情いっぱいの柔らかい感触に変わった。


恋人の柔らかい唇の感触。頬に触れた優しい口付けだった――。

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