ジュリアン・ドール
その他、高給クラブやカフェテリア、それからカジノバーやポーカーハウス、時にはオペラハウスを解放して、オペラや楽器演奏等の芸術鑑賞を日常に取り入れ、食事をしながらそれを楽しむといった様々な贅沢が取り揃えられているが、それらも全てレストラン“舞踏会”の会員の特典として利用できる施設である。


ジョウもドルガン家に招待され何度も来ている場所だが、このレストラン“舞踏会”は彼自身も気にいりのレストランだ。


そして今日もドルガン家の夕食会は、ここで行われることになっている。



馬車が門の前で止まり、外から扉が開けられると、ジョウは縺れそうに長い足を揃えて、そこから下りた。


「お疲れ様!」


ジョウは、馬車の扉を持ったまま立っているドルガン家の召し使いに感じよく声をかけてやった。

ドルガン家の一人娘の恋人という立場であっても、まだ正式な婚約者となっているわけでもなく、いくら召使の相手に対しても、相手を“下”に見ることはなく、『ご苦労様』ではなく、『お疲れ様』という言葉をあえて選んでいる。


いち労働者としての立場は同じ立場だという親しみと敬いの気持ちを込めて・・・


すると、癖の強い栗色の髪の痩せた初老の召し使いは、ドルガン家の客人に対し、深く頭を垂れた。


その召使いの男も、ジョウと同じこのサバル地方特有の髪や眸を持っているが、彼は純粋なサバドールの血を引くサバドリアンらしく、ジョウに比べると髪の色も濃く、そして癖も強いし、眸の色は限りなく闇の色に近い焦げ茶の色をしていた。


そしてジョウに続き、ミサも長いドレスの裾を持ち上げ、馬車を降りようとすると、サバドリアンであるその召使いの男が、さっと手を差し伸べて来た。


ミサは召し使いに優しく微笑むと、遠慮なくその手を借り、馬車から降りた。
< 21 / 155 >

この作品をシェア

pagetop