ジュリアン・ドール
このオルゴ-ルの仕掛けを時計に取りつけたのは、ジョウ自身なのに。しかし、ジョウはそんな自分に笑いながらも、頭の中では勝手にその“プリンセス”こと、ジュリアンの声の響きは続いていた。



昔からジョウの頭の中では、ジュリアンの声や仕草などのイメ-ジは作られていて、だからこそジュリアンを見ていると、いろんな姿のイメ-ジが沸いてきて・・・・・、それが、ジョウが人形を作る上でのヒントになっているのだった。


今度も彼の頭の中で、ジュリアンはジョウの語りかけに答えていた。



『そんなこと、わたくしには関係のない事だわ。わたくしは貴方以外の誰のものにもならなくてよ』



我が儘そうな口調で、しかし細く澄んだ艶やかで美しい、女性らしい声で・・・・・。



『私はここにいるわ。ずっと・・・・・。貴方は誰にも渡さないわ』



 ジョウはまた、クスッと笑った。



「俺はまるでナルシストか?

俺にはミサだけだと言うのに、頭の中では勝手にジュリアンが俺を愛してくれていると思い込んでいる。……馬鹿らしい話だ」



この家の古い柱時計にこんな仕掛けをつけたのも、元はと言えば、ジュリアンがそれを望んでいた気がしたから、この人形が“踊りたい”と願っていたから。・・・・・そんな気がして付けてみただけだった。



しかしそれは、自分にとってどうやら正解だったらしく、頭の中でジュリアンは、活き活きとした表情で踊り出し、流れ落ちる汗の雫まで、鮮明にイメ-ジが沸いてくるようになった。



それからジョウは幾つもの人形を作った。


それらは全て、美しい黄金色の長い髪と深い碧色の双眸の、いくつもの“ジュリアン”だった。

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