ジュリアン・ドール
ジョウは急いで店内の窓に垂れ掛ったカ-テンを開け、そして店の扉を開けた。


カラン・・・ コロン・・・・・・。


頭上では鈴の音が派手に聞こえている。来客を知らせる為に、扉に取り付けられた鈴の音だ。


外に出ると、日は高く昇りつめ、快晴の空がやけに眩しく彼の目を直撃した。


「うわっ!眩しい!!」



ジョウは目を細め、思わず日を遮るように額の前に手を翳した。


もう、冬も近いと言うのに、こんなに日差しが強いとは……。


日差しにはあまり強いとは言えないジョウは、多少うんざりしたような目付きで、雲さえ見つからない澄みわたった快晴の空を睨みつけた。


そして、固い木の扉の外側に“JURIAN・DOLL”と、文字を浮き彫りにした木の看板をかけると、ジョウはそのまま扉を閉め、二~三段程の階段を下り庭に出た。


粗末ながらも、ちょっとした庭園になっているそこから、自分の住むレンガ造りの古い家をながめていた。



レンガ造りのこの家は、その昔、ダルタ-ニ王国の国王、エルストン二十一世の母、皇太后と王女が住んでいたと聞くが、一時はこのカムリナ大陸の、ズザン,サバド-ル,ベルシナ,そしてダルタ-ニ王国の四大国の中で最も繁栄していたという国の離宮と呼ぶには余りにも小さく粗末な建物だ。


しかしそれも、ダルディとジョウの二人暮らしには、とても広過ぎる。


現に、使われていない部屋も幾つもあるのだから。


ジョウは、庭に咲く秋の花、ソ-プリリアも枯れ落ちた茂みの傍らで、その使われていない部屋が、子供たちの遊び部屋や、ミサとの寝室などで埋めつくされる日を刹那に夢見ていた。


ベルシナの“舞踏会”のように、この幾つも並ぶ、窓という窓からは明かりが洩れ、美しく闇夜に栄える、そんな未来の夜を想像して……。



「さてと、始めるか……」



ジョウは独り言を言いながら店の中へ戻って言った。
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