ジュリアン・ドール
ジョウは新しく作る人形の衣装に使う生地を裁っていた。
高級志向か、一流の生地しか使わない。
薄い紫色の柔らかいヴェルベット。秋も過ぎ行く頃には、決まってジョウは、この家の庭を賑わせたソ-プリリアの花が枯れて行くのを惜しむのか、この時ばかりはこの花と同じ色の布地で人形の衣装を縫うことにしている。
ジョウは、生地に印も付けずいきなりそれに鋏を入れる。その為いつでもこの瞬間は気をゆるめる事は許されない。
ジョウの女性的な美しい顔も、その時は真剣さに鋭く光る眼で別人のように変わる。
鋭利な刃物は、音も立てずに布地を両断し、布はジョウの手によって、それぞれの大きさや形に切り分けられる。
「仕方あるまい、9200ベルク・・・」
不意に、呼びかけも無しに、背後からダルディの低く掠れた声が聞こえ、ジョウは作業の手を止め、声のする方向へ振り向いた。
「それ以下では譲れん!」
「9200ベルク・・・?」
「ああ、そうじゃ」
「そんなに・・・、いくら金に射止めは付けないと言っても・・・・・ここをもっと大きな家に建て直したって余りすぎる程の金。気でも狂ったのか?」
ジョウは驚いた。まさか、ダルディがそんな値をこの人形に付けるとは思っていなかった。
「ばか者。本来なら25万ベルクの価値はある。破格だ破格。それを気が狂っただと?
この人形の身についている宝石を全て合わせると、これでもありがたすぎる値だ。骨董品や宝石の価値を見抜くお前が、この人形の価値も見抜いていないとは情けない。
この見事に大きなサンディゴルは、色も素晴らしく深い色合いで、しかも傷一つ付いていない値打ちものなんだ。
ただでさえ希少なサンディゴルの傷も無い完璧な代物を両の目に持っておるのだ。
それにこのアレクサンドや腕を飾るダイヤのブレスレットも全て、傷物など使われてはいない。それに、なにより・・・・・、どうだ!どんなに腕を上げた人形師でさえ、これほど素晴らしい人形が作れると思うか?」
「しかし、9200ベルクもの大金を、これから身内となる相手から頂くのか?それにそんな金、受け取ってどうするんだ?」
「金か?・・・金なんて、ただ預かるだけじゃ。有っても無いもの同然の金さ」
高級志向か、一流の生地しか使わない。
薄い紫色の柔らかいヴェルベット。秋も過ぎ行く頃には、決まってジョウは、この家の庭を賑わせたソ-プリリアの花が枯れて行くのを惜しむのか、この時ばかりはこの花と同じ色の布地で人形の衣装を縫うことにしている。
ジョウは、生地に印も付けずいきなりそれに鋏を入れる。その為いつでもこの瞬間は気をゆるめる事は許されない。
ジョウの女性的な美しい顔も、その時は真剣さに鋭く光る眼で別人のように変わる。
鋭利な刃物は、音も立てずに布地を両断し、布はジョウの手によって、それぞれの大きさや形に切り分けられる。
「仕方あるまい、9200ベルク・・・」
不意に、呼びかけも無しに、背後からダルディの低く掠れた声が聞こえ、ジョウは作業の手を止め、声のする方向へ振り向いた。
「それ以下では譲れん!」
「9200ベルク・・・?」
「ああ、そうじゃ」
「そんなに・・・、いくら金に射止めは付けないと言っても・・・・・ここをもっと大きな家に建て直したって余りすぎる程の金。気でも狂ったのか?」
ジョウは驚いた。まさか、ダルディがそんな値をこの人形に付けるとは思っていなかった。
「ばか者。本来なら25万ベルクの価値はある。破格だ破格。それを気が狂っただと?
この人形の身についている宝石を全て合わせると、これでもありがたすぎる値だ。骨董品や宝石の価値を見抜くお前が、この人形の価値も見抜いていないとは情けない。
この見事に大きなサンディゴルは、色も素晴らしく深い色合いで、しかも傷一つ付いていない値打ちものなんだ。
ただでさえ希少なサンディゴルの傷も無い完璧な代物を両の目に持っておるのだ。
それにこのアレクサンドや腕を飾るダイヤのブレスレットも全て、傷物など使われてはいない。それに、なにより・・・・・、どうだ!どんなに腕を上げた人形師でさえ、これほど素晴らしい人形が作れると思うか?」
「しかし、9200ベルクもの大金を、これから身内となる相手から頂くのか?それにそんな金、受け取ってどうするんだ?」
「金か?・・・金なんて、ただ預かるだけじゃ。有っても無いもの同然の金さ」