ジュリアン・ドール
夜風が娘の美しい黄金色の髪に纏わり付き、翻弄している。


娘は風に揺れて煩く肩にかかって来る、言うことを聞かない黄金色の髪をうっとうしそうに何度も払うが、しかし、黄金色の髪は柔らかく、そして軽い。何度払ったとしても、髪は風と戯れることを止めるはずもなく、全く意味がなかった。


そのうち、娘は風の悪戯に抵抗する事を諦めていた。



ふと、娘は、誰かの名を独り言のようにつぶやき、呼びかけた。



「ローレン・・・・・」

(ローレン・・・・・・)



谺が跳ね返って戻ってくる。


風に運ばれ顔を覆う黄金色の髪の向こうには、恋する乙女の、なんともいじらしい微笑みがあった。


このソ-プリリアの花束を受け取る時、愛しいあの人は、どんな顔をするだろう?


娘はそんな事を頭の中で想像していた。


「ありがとう!」と言って、喜んでくれるだろうか?それとも・・・・・お礼に口付けを?・・・・・それとも・・・・・。


不意に、頭の中で愛しい人の冷たい言葉が響いたような気がした。



『君とは、もう会いたくない。もう、私の前に姿を見せないでくれ――!』


いつもは優しい恋人からの、思いも寄らない彼女を突き放すような冷たい言葉。



「ローレン!――なぜ?!」



娘は頭の中で響いた言葉に思わず叫んだ。


その瞬間、店内から鳴り響いていたオルゴールの音が止み、そこは静まり返った闇の静寂へと変わった。


娘は何かを思い出し、そっと自分の胸元へと手を忍ばせてみると、そこから一枚の紙切れを取り出した。それは、口上の代わりに使いの者によって手渡された、恋人からの切れ文だった。



「こ、これは――!」



なぜ、忘れていたのだろう?

急がなければ!急いで、会って確かめなければ!と――、そう思っていたはずだったのに。
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