ジュリアン・ドール
ミサは母国語であるベルシナ語しか話せない為、ジョウのそんなところには憧れていたし、自分の旦那になる彼の有望ぶりを誇りにも思っていた。


時々夫人との会話に、訳の分からない単語などが出てくると、ミサは思わずジョウに助けを求めようとジョウを見るが、ジョウは、会話には参加する気は全く無いようだった。


酔っ払いを相手にしても、どうにか会話を続けようとしているところにミサの優しさが見える。


初めて会ったばかりの相手なのに・・・・・。
こんな人なつっこい無邪気さも、よく似ている・・・・・と、ハーリーは、記憶の向こうに思い出という形で存在している一人の少女とミサを重ねていた。


ハーリーの記憶の向こうで微笑む少女もまた、母親譲りの見事な黒髪だった。

(この黒髪、可愛らしい性格・・・・・、そういえば顔も似ているように見える・・・・・。きっと東洋の血を引いているのだろう。東洋系の人種はみんな同じような顔をしていると聞くが、どうやら云われは本当らしい・・・・・)

ハーリーは、ミサの顔を見つめながら、そんな事を考えて思わずクスリと笑みをこぼした。


「?!」


ミサは、先程から気になっている、視線の向こうから聞こえた微かな笑みのような声に気付き、酔いつぶれた婦人から視線を反らし、ふと、ハーリーに視線を送った。


ハーリーは咄嗟にミサから視線を反らし、今度はジョウの方に視線を向けたが、どうやらジョウの方は人見知りする性格らしく、会話には加わらずに、背後に広がるダンスフロアーで踊る紳士・淑女達を眺めていた。


華やかな衣装に身を包み、身体中で音楽を楽しんでいる貴婦人。本当にかつての貴族達の時代にいるような気がしてくる。そして、それをリードする紳士達。ダンスが苦手なジョウにとって、男の目から見ても紳士達がカッコ良く見えてしまい、少し悔しさを感じていた。


なんて上手に、こんなに軽やかに、リズムに乗っているのだろう・・・・・?あんなふうに、ミサをリードして踊る事が出来たなら・・・・・どんなにか楽しいだろう?



ふと、天井を見上げると、色とりどりの貴族風の派手な衣装で踊る人々の姿が、鏡の天井に逆しまに映し出されている。
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