ジュリアン・ドール
四方にあるはずの壁は見えず、鏡の壁が世界を広げ、視界に広がるフロアーには、やはり、そこにも時代錯誤できらびやかな衣装を纏い踊る人々が永遠と続く、壁と壁の合わせ鏡の作り出した、宇宙のように広いダンスフロアの中で踊っている。


こんなにダンスが苦手なのに、それを観ているのは不思議と飽きない。


ジョウは、ここへ招待された時にはいつもこうして、ミサとサロンの二人の踊る姿をいつまでも眺めていた。


もう、“闇の中の刻”も過ぎようとしていると言うのに、時間を忘れさせ、ここは昼間のようにいつまでも賑いでいる。


ここの会員には二通りの会員がいて、一つはサロンのように、家族やビジターなどが、自由にオールシーズンいつでも利用できる“VIP会員”と、個人の誕生日の月のみに利用できる“季節会員”がいるのだが、季節会員はVIP会員に比べると、かなり費用もかからずに会員になれ、ダンスを踊る為、個人の他、パートナーとしてもう一名だけがビジターとして利用することが出来る。

たぶん、今ここで踊っている者達のほとんどが、こうした季節会員のメンバーなのだろう。その月だけしか利用できない、この“舞踏会”に、毎日のように通っては、朝まで踊り明かすのが季節会員の遊び方の特徴である。


「じゃあ、ハーリーは何でも分かるの?」


ミサは、ハーリーに尋ねる。


「ええ、何でも分かりますとも。過去も、そして、未来も・・・・・。しかし、未来はこれから作って行くもので、無闇やたらとわたくしの勝手で告知することは許されないのですが・・・・・ね」


ハーリーは自分に興味を示したミサに優しく答えていた。

ミサと酔い潰れた夫人との会話にいつの間にかハーリーも加わり、話は盛り上がっていた。


酔っ払いの相手には慣れているハーリーの方が、ミサよりかは夫人の言葉の意味が分かるようで、もっぱら通訳をしているのが殆どだったが、ミサはハーリーとの会話の方に興味を示してきた。
< 52 / 155 >

この作品をシェア

pagetop