ジュリアン・ドール
「ハーリー・・・、貴方お父様をご存知なの?」


ミサは不思議そうに聞くが、ハーリーは微笑み、「直接的には存じませんが、貴女の眸を通して伝わってきました。大商人の“サロン=ゾル=ド=ドルガン”様・・・・・それが貴女の父ですね?」と確認した。

「ええ、そうよ・・・・・。貴方本当にすごいわ。何でもわかるのね」


ミサは驚き、感心して、「もっと、何か分かる?私を見て何が分かるのかしら?」と、声もはしゃぎ出すが、ハーリーは静かに横に首を振って見せるだけだった。


「前世に振り回されてはいけない。未来を知っては、明日を送る意味もなくなってしまう・・・・・。この話は終わりにしましょう」――と、再び、口を閉ざしてしまった。

「意地悪ね、そういうハーリーだって前世と同じ場所で働いているくせに」

ミサは得意のわがままな口調で、しつこくその話題を聞き出そうとしている。そんなミサに、ハーリーはふと寂しそうな顔を見せた。

「ハーリー・・・・・どうかしたの?」

「わたくしには家族がいないんでね。子供の頃、家が全焼してしまいまして、姉も、弟も、両親もみんな、幼い頃に亡くしてしまったのです。恥ずかしい話ですが、こう見えても寂しがりやだったりするんですよ、私も。

ですから、もしも私の遠い記憶の中に存在している家族にでも会えるなら、と思いまして……。ここにいれば、もしかすると、かつての可愛い妹たちに出会えるかも知れない、という気がするんです。

しかし、お嬢さんには優しく立派なお父様や素敵な恋人がいらっしゃる。今を大事にして下さい。過ぎてしまった自分の知らない過去の事よりもね」



そこへ、ミサの隣の席で一緒に話を聞いていた、酒に酔った夫人が割り込んで来た。


「あ~ら~、はあり、冷たいゎねぇ。わらしにゃ・・・・・いろいろ話してくえたやらいのぉ~」


婦人は、酔いに舌も回らなくなって来ているが、何とか理解できた。


「まあ、良いではありませんか。わたくしも疲れてしまいましたし、ミセス・ハーベラ、失礼ですが、お酒が入り過ぎだとお見受け致します。そろそろお控えになってはと思いますが?・・・・・」


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