ジュリアン・ドール
「はありの、けっちんぼ~が、はじまった~わ。言い出すとぉぉお酒も、出~してくえなぁのよねぇ。わらしゃ~へや~にもろって寝るるわぁ~。ぉやふみぃ」


婦人は、おおきなあくびを手で押さえながら、席を立った。


「お休みなさいませ」


ハーリーは、よろよろと歩く婦人の後ろ姿を心配そうにしばらく見送っていた。



今日はすっかりダンスのレッスンに夢中になり、長居していたミサも、そろそろ時間を気にしていた。家でサロンが心配していることだろう。



「私達もそろそろ帰りましょう・・・・・。

ハーリー、悪いけど、フロントに馬車を出すよう言いつけてくれるかしら?」


 ミサは、ハーリーに馬車を依頼した。


「はい、かしこまりました」


ハーリーは、快く返事を返し、カウンターの横にある呼び鈴を鳴らした。


チ~ン!

呼び鈴がフロアーに流れるピアノの旋律の中に割り込んで、高らかに音を響かせた。

するとまもなく二階フロアーから階段を下り、正装に整えた若い使用人が颯爽と早足で歩いてきた。


「お呼びでしょうか?」もの静かな口調で、使用人は尋ねる。


「フロントに、すぐに馬車を出すよう言いつけて頂きたい。御客様がお帰りになられます」と、ハーリーは、使用人に言い渡した。

「かしこまりました。しばしお待ちを」


使用人は軽く会釈をし返事を返すと、すぐに踵を返しフロントへと急いだ。


「ジョウ、明日は昼食をすませてから来るから、陽の去の前には来れると思うわ。それまではゆっくりしていて」


ミサは、翌日の時間を伝える。


「分かった。悪いね、オレがダンス不得意なせいで」


ジョウは申し訳なさそうにしていた。


「いいのよ。私も充分楽しんでるし、毎日会えるなんて今迄なかったじゃない」

「まあね、でも、結婚したらいやでも顔をつき合わせるようになれるさ」


 ジョウの言葉に、ミサは微笑み頷いた。


「ふふ、夢のようだわ」



そして、少しも待たないうちに、すぐに馬車は用意され、先程の若い使用人が知らせに来た。

「お嬢様、馬車が当店の正面にお着きになられました」

「分かったわ。ありがとう」



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