ジュリアン・ドール
ミサは使用人に微笑みかけ、礼の言葉を伝えて、使用人の手に1ギラの紙幣を握らせた。


「ありがとうございます。」


使用人は気持ちを受け取り、ミサに頭を下げてその場を立ち去って行った後、その笑顔をハーリーへと移して、ハーリーには紙幣を三枚テーブルに置いた。

「お休みハーリー。貴方は明日はここにいるの?」

「はい。いつも“闇の中”から“明の去”迄が私の時間となっております。お見知り起きを」


ハーリーは軽く会釈をして自分をアピールし、ミサに答えた。


今迄彼に気付かなかったのは、いつもミサがここへ来る時間帯とハーリーのいる時間帯が食い違っていたからだ。と、ミサは理解し、印象の良いハーリーに出会い、ここへ来る楽しみが又一つ増えたと思った。


「ありがとうございます。またの起こしをお待ちしております。お休みなさいませ」


ハーリーは最後まで二人の後ろ姿を見送っていた。


「じゃあ、また明日ね。ジョウ」

二人は軽くお休みのキスを交わし、ミサは馬車に乗り込んだ。


ミサは馬車の窓から顔を覗かせ、手を振っている。


ビシッ!と、鞭が馬の尻を叩く音が冷たい夜空に響き、馬はヒヒ~ンと嘶き、走り出した。ジョウはしばらくの間、その場で馬車を見送っていた。


その場に一人残されたジョウは、身を切るように冷たい風に初めて気付き、寒そうにその身を抱き締めた。足下にはびこる雑草には、白く霜が絡みついて、月明かりにキラキラと輝いている。もう、そんな季節になっていた。


次の春にはと思っていたミサとの結婚も、サロンの都合でこの冬にと決まり、急遽行われる婚約披露パーティーの為に、ジョウは、その日までここに泊まり込んでいる。


この、会員制レストラン“舞踏会”は、ホテルの経営もしていて、レストランの利用客ならば無料で宿泊できるシステムになっていてる。ジョウが泊まっている部屋は、中でも特別に贅沢な部屋だった。


ダンスを踊れるレストランも、宿泊に利用されている部屋も、全てが貴族たちがはびこっていた時代の建物をそのまま利用し、その時代の風雅をそのまま生かし、営業されているのだった。


ジョウは、BARに戻り、もう一杯だけ酒を飲むことにした。

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