ジュリアン・ドール
姫君を迎えに来た貴公子のような高貴な面差し・・・・・と、人々は彼を例えるが、彼の容貌は、貴婦人の様な線の細い美しさを兼ね備えてもいた。


その顔は小振りで、品が良く形の良い細く吊り上がった眉が男らしさを強調してはいるが、どちらかといえば、ほっそりとした頷の線や、青白い程に不健康そうな肌の色や、男のくせに、くりんと上に反り上がった長い睫、そして、ほのかに赤い薄い唇。それに男らしさのない、か細い首といった、もしも彼が婦人であったなら、さぞかし神秘的な美しさの貴婦人であったことだろうと、誰もが思うほどに容姿端麗なのだが、容姿とは裏腹に、内から溢れ出る情熱的な思いが、その美しい容姿をちゃんと凛とした青年のように映し出している。


本人に全く自覚がないのは、ただ鈍いだけなのかは分からないが、ひと目見まえたならば、誰もがときめかずにはいられない、と言っても過言ではない。


実際に本人の気付かない所で彼を慕う年頃の娘は、数知れず・・・・・。



彼の持つ栗色の髪や眸の色は、この国ダルダにあるサヴァル地方に住んでいる者に特に多く見られ、癖のある栗色の髪と眸の色というのがその特色であり、彼はその遺伝を受けているらしい。


もともとサヴァル地方と言うのは、今から七百年程前、ダルタ-ニ王国の北西の位置にある国、サバドールの領土の一部がその国の燐国ズザンに略奪され、奪われた領土から国境を越え渡ってきた移民、多くのサバドリアンが住み着いた地方のことを言うらしい。


したがってダルダだけではなく、ダルダの燐国ベルシナにもサヴァル地方と呼ばれている地方があるが、そのサバル地方と呼ばれる地に住むサバドリアン系の人種は、一般的にそういった、癖の強い、光沢のある栗色の髪と栗色の眸を持っているのだが、ジョウがその血を引いているのは、その髪や眸をよく見ると判る。

・・・・・が、どちらかと言えば、祖国ダルダの血の方が濃いらしく、ジョウの髪の色は、比較的薄めの栗色で、癖もさほど強くない方だ。


サバドリアン系の癖毛の遺伝は強く、ジョウのように癖の少ない髪質の者は珍しくもあり、それが彼の魅力のひとつでもあるようだ。






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