ジュリアン・ドール
そう言って、ハーリーはジョウにウォルビアを差し出した。

「これを頼むなんて、貴方が姫君の美しい眸の色を忘れていない証拠さ。・・・・・多分貴方の家には・・・・・その人形がありますね?かつて貴方が姫君に送った人形が・・・・・。

貴方はいつもそれを見つめて・・・・・」

「いい加減にしてくれ!!」


ジョウは思わず机に拳をぶつけ、ハーリーの話を遮った。


「俺は何も話してはいない!なぜ君は人形のことまで知っているんだ?面白くない!!」


ジョウは気を取り乱し、目の前に差し出されたウォルビアを、一気に呷った。


「失礼……。わたくしのお喋りが過ぎてしまったようで、お許し下さい」


ハーリーが、もの静かに頭を下げ謝罪の言葉を伝えたが、ジョウは席を立ち、既に背中を見せていた。


一人残された誰もいないBARで、ハーリーは、暫くジョウの後ろ姿を見送った後、テーブルに残されたグラスを片付けながら、独り言を溢していた。


「こんな奇跡が本当に起きてくれるなんて、長い間、私が待ち続けていた運命が・・・・・。 彼は、あの娘のいる私の宮、ダルターニの離宮に住んでいるのか。ローレンとエルミラーラ、そしてジュリアン、離れられない運命か・・・・・。

ああ、わたくしの義妹、美しい姫君、愛しいジュリアン。あの娘はいったいどうなるのだろう?

できるならば私が皮肉な運命から君を救ってやりたい」


ハーリーは、近い未来に会えるかもしれない“ジュリアン”のことを胸の中に抱いていた。


そう、もう少しであの人形を買えるだけのお金額が揃う。長い年月をかけて、生活をきりつめてまでして、やっと君を自由にしてやれる。待っていてくれ、ジュリアン。


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