ジュリアン・ドール
そして、その理由は――。



娘は、再び、恋人からの手紙を思い出し、悲痛に胸を苦しめていた。


ギュウッと、ソ-プリリアの花束を抱き締めながら、「ローレン・・・・・!」と、唇を震わせて、恋人の名前を呼ぶ。偽りのない眸で見つめ合っていたのは、つい昨夜の事なのに・・・・・。


突然に襲いかかってきた不安!


一目会ったその日から、燃え上がる愛に溺れ、互いの瞳には、見つめ合う目の前の恋人しか目入っていなかったほど、狂おしく愛し合っていたはずなのに。


将来を誓った愛しい人の言葉は、一語一句、忘れてはいない。


『寂しい夜の闇も、一人きりの夜明けも、やるせない。そんな今までと同じ明日など、既に考えられない。

私は、君と永遠に同じ夢を分かち合いたい。目が覚めたなら、朝の光の中に君がいる。そんな日々を繰り返すのが私の願いだ。

一日の始まりには、まどろみの中で口付けを交わそう。

贅沢なものなど何も望まない。この命の傍らにいつも君がいてくれるのならば、それが一番の望みなのだから・・・・・』



愛しい恋人ローレンは、そんな気持ちを、二人を包む白いシーツの中、甘い声で語っていた。


確かにプロポーズの言葉として受け止めていたのに、白い胸に触れた唇の、柔らかく暖かな優しい感触さえも、愛情の印として残されている、そんな口付けの跡さえ色褪せぬうちに、いったい・・・・・何事が起きたのだろう?


信じられない、絶望的な手紙。


『君とは、もう会いたくない。もう私の前に姿を見せないでくれ』


確かに見覚えのある筆跡で、使いの者によって届けられた切れ文。他には添え書きさえ書かれていない。
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