ジュリアン・ドール
―― さて、その美青年のジョウが、栗色の双眸を古い木製の戸棚のガラスの向こうに閉じ込められている美しい人形へと向けている。


まるで最愛の恋人の眸をじっと見つめ合うように、こちらを見つめる人形の視線と視線とを交じ合わせ互いを見つめあっていた。



・・・・・それは、ジョウにとっていつもの大切な時間だった――。



何故かはわからないが、その戸棚の中に閉じ込められた人形を見ていると、ジョウの頭の中の奥深いどこかで、ある一つのイメ-ジが、清らかな聖水を沸き立たせる泉のごとく、新鮮に、確かなイメージとして沸き上がってくるのだった。


もう、子供の頃からそうしたイメ-ジを、この人形を見る度に思い描いていたので、ジョウにとっては、自分が人形を作っていく為のイメ-ジを攫むこの大切な時間は、日常から欠かせないものになっていた。



ガラスの向こうで、人形は見つめる熱い視線を受け止めるように、それと見つめ合っている。


ジョウの栗色の双眸は、そんな時だけはいつになく真剣に、その人形の二つの深い碧色の眸を見つめているが、しかしそれは、二つの碧色の眸の向こうを儚く見つめているようにも見える。


その向こうで出会える“何か”のイメージを切なく追いかけるように、真剣に・・・・・。



ジョウの恋人である、東洋の血を引く漆黒の髪の娘、ミサは、そんな熱い視線を、恋人である自分でさえ向けられた事がないという事には、ただの人形にさえも嫉妬を覚えてしまいそうな気がしていた。



そしていつもの事だが、今度もまた、ジョウはミサがここへ来た事さえ全く気付いてもいないらしい。


店の扉が開く時に、来客を知らせる鈴の音さえも聞こえてはいないのだから。



まあ、ミサも初めて会った時、ジョウのそんな真剣な眸にひと目惚れしたのだから、文句は言えないのだが。


――― そしてジョウは、しばらく人形を見つめた後、眸を閉じ瞑想に入るー。
< 7 / 155 >

この作品をシェア

pagetop