ジュリアン・ドール

娘がそう言うと、突如突風が巻き起こり、蝙蝠の奇声にかき消されていたはずの風の音は荒れ狂い、樹々のざわめきと蝙蝠達の奇声とが闇の中で絡み合い、空では逆巻く風の唸りと共に、風が暗雲を運んでいた。


「な･････なんだ?!」



　男達は、驚き、騒ぎ出した。



「薄汚い格好をした浮浪者よ、どうせお前達の死を悲しむ者などいるはずがなかろう･････。しかし、喜べ！地獄はお前達を歓迎し、快く迎えてくれる!!」


幾度となく光る稲妻で、闇の中には娘の声と瞼の裏に焼きついた、恐ろしい表情だけが残っている。



「こ、この･････アマ、な、何を言ってやがる･････？うわっ！」



強風が男たちの叫ぶ言葉を奪い、そして、樹々を揺らして木の葉を誘い、乱舞が巻き起こる。乱舞する無数の木の葉が風に捕らわれ、娘の回りで渦を巻いた。


風はどうやら彼女を中心として渦を巻き、止めどなく強く吹き付ける旋風となって、彼女を守っているらしい。


男達はもはや、ほんの少しも娘に近付くことは不可能になっていた。そして、突如の異変に怯み、男たちは身じろいていた。


その時、一人の男が悲鳴を上げた！



「うわぁ！」



何かが男達の視界から、全ての光をさえぎった。光りといっても、暗雲で覆いつくされた暗闇の下で残されていたのは、今にも闇に呑み込まれるほどの弱い街頭の明かりと、僅かな光りに照り返す、露にされた娘の乳白の素肌と、時折、ほんの一瞬眼光を放つ、娘の双眸の不気味な煌めきだけだったが。


娘は、言葉を止めず、語っている。


「落雷を受けるか、風の刃でその胸をズタズタに切り裂いてやろうか？･････それとも、燃え盛る炎の中でドロドロに溶けて行くか･････？どちらにしても、ありがたく思え。どんな無残な死に方であろうと、目を奪われているなら、自分がどんな状況でいるかなど、見えやしないのだから」


男達の視界から全ての光りを遮り、二人を真の闇へと陥れたのは、何かの力により、きつく張り付いている木の葉だった。