ジュリアン・ドール
二人は神経をとぎ澄まし、相棒の名を呼びながら手探りで互いを探し合っている。


寄り添っていなければ、闇に一人放り出されたような、底知れぬ不安が身を襲った。


「お、おい・・・・・どこ・・・・・だ?」


 しかし、互いの居場所を知らせる為の呼び声さえ、強風の唸りに混じり、敢え無く掻き消されてしまう。聞こえて来るのは耳を劈くような荒れ狂う風の音と、それと絡み合うように、風の中に聞こえる二人の男を嬲り嗤う声だけだ。


――その時!


「ぎゃあぁっ・・・・・!」



一人の男が、悲鳴を上げた。

もう一人の男は、頬に生温かい何かの感触を受けた。


『や、殺られ・・・・・た・・・・・?』

研ぎ澄ました神経の中から、仲間の気配が瞬時にして消え去り、男は本能の中で、仲間はもういない事を悟る。


目は見えないが、たぶん頬に受けた“生温かい何か”の感触とは、仲間の“血しぶき”・・・・・だろう!


闇に一人残された男は、濃密な暗闇に陥れられ、その身に迫る魂の危機を肌で感じ取り、不安と死への恐怖を増幅させていた。



心臓が激しく脈を打ち、風の中で、“闇”の本当の恐ろしさを初めて知らされていた。


「次は…お前だ!」


娘が不気味につぶやくと、バサバサ・・・バサバサ・・・バサバサササ・・・ザザザと、夜鳥達の羽ばたいて来ては木の枝に止まり無数の光る双眸に囲まれていた。

樹々という樹々の枝という枝が光を散りばめ、ホホーゥ… ホホーゥ、ホーゥ・・・と絶え間なく鳴き声を響かせている。


『な、なんだ、いつら?!』


目を凝らしてみると男と一羽の夜鳥が目が合った。
いや、ちがう、全ての年千もの無数の野鳥たちが男を凝視していた。中には余裕で180度首を回転させては、ホホーゥ、ホーゥ・・・と鳴いているものもいる。

「さぁ、肉食の夜の鳥たちよ、今日は特別に人肉を喰らう事を許可する。目の前で怯える無様なその野獣の肉を食いちぎりながら、息が途絶えるまで恐怖を与えながら、肉を喰い尽くすが良い!さぁ、行け!!!」

娘がそう命ずると、その鳥たちは一気に襲いかかった。

『うぁぁぁ、や、やめてくれ!』

男は身体中に襲いかかった野鳥の鋭い嘴に食いちぎられ、ただの肉の塊のような姿になる頃には恐怖の中で気が狂っていたであろうが、それも束の間だろう、骨だけの姿になるまでにそう時間はかからなかった。


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