ジュリアン・ドール
娘は、一人きりで放心状態で立ちつくしていた。


その足下には生きていた頃の原形を留めてはいない、無残な二人の男の亡骸と思われる肉片が散らばっている。



ここは馬車道――。


明日になれば誰かが通りすがりに見つけて、町では騒ぎが起こるだろうが、せめて土には埋めてもらえるだろう。


先程の突風は嘘のように静まり、月の光を隠した暗雲など、初めから無かったようにどこかへ消え去り、そして、空には星も月も何事も無かったようにそこにある。



冴え冴えとした月が自分を蔑でいるように、娘には思えてならなかった。



使ってはいけない“力”で人を殺してしまった。
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