ジュリアン・ドール
(彼らが悪いの。私を・・・・・、私を汚そうとしたから・・・・・!

私は悪くないの・・・・・。

でも、私、殺してしまった)



立っている力さえ無くし、崩れるように地に膝を付いて、胸の苦しみや辛さを集めた感情を拳の中に握り締め、石畳をその手で殴りつけて叫んでいた。


「辛いわ、辛い。もうこんな運命はいや!逃げ出してしまいたい。死んでしまいたい」



自分の叫んだ言葉に、ふと冷静に考えた。



(死んでしまおうか?いいえ、駄目!自ら命を絶ってしまったら、もう二度とあの人には会えない・・・・・、そう言ってたはず)



娘の頬から、銀色の滴がはらはらと落ちて行く。とめどなく溢れてくる涙で、何も見えるはずのない眸を空へ向け、娘は空を仰いで、月に問いかけるように心の中で呟いた。


(言ってた?言ってたって、誰が?

 ・・・・・お母様が。

 お母様?そんなことがある筈がないわ。私はお母様に会ったことがないのに。

 じゃあ、誰?


 でも覚えてるわ。厳しい声・・・・・、誰?

 わからない。私を叱るような・・・・・。その言葉に私は従って来たわ。いつか、もう一度あの人に会う為に。


 そう・・・・・あの声がそう言ったの)


『・・・・・アン、ジュリアン・・・・・!』


辛い運命に苦しみ、愛を諦め、生きる事へ終止符を打とうとすると必ず聞こえてくる、いつもの厳しい女の声を思い出してた。

『いけないわ、ジュリアン。自ら命を絶ってしまうなんて、神様がお許しにならない。・・・・・この先どんな事があっても、決して自ら命を絶ってはいけません!

わたしにはわかります。あなたはいつか必ず、あなたの愛しい人に再会できるのですから。だから決して死を選ばないで。あなたが本当に彼を愛しているのなら・・・・・。

あなたが自ら死を選んでしまうのなら、命を粗末にした事を神様はお許しにはならず。もう、永遠にあなたは恋人に会えなくなってしまうのです。

あなたの愛が真実ならば、この長い時も乗り越えられるはずです。

辛い記憶は、犯した罪に懺悔した後、心の底に沈めてしまいなさい。罰はわたしが代わりに受けましょう。だから生きるのです、ジュリアン。生きて愛を貫くのです・・・・・』


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