ジュリアン・ドール
(なぜ、あの声の人は、こんな私に生きろと言うのだろう?

何故?わからない。そんなのどうでもいいこと。

今、本当に私、死んでしまいたいわ。だって、ローレンがもう会いたくないって言うんだもの。使ってはいけない“力”で、私は人を殺してしまったんだもの。ローレンがそれを知ったら、私、もっと嫌われてしまうわ。だから彼にはもう顔を合わせられない、二度と会えるわけがないから・・・・・、死んでしまいたい。

・・・そうだ、死んでしまおう。舌を噛んで、とっても痛いけれど、我慢すればこんなに辛い気持ちもきっと楽になれる。すぐに楽に・・・・・・)


そう決心すると娘は、上の歯と下の歯の間に小さな舌を挟んで、心を決めると舌を噛み切ろうと力を入れようとしていた。


 その時。


『ジュリアン・・・!』


娘の脳裏に“あの声”が聞こえてきた。


娘はハッと我に返り、舌を噛もうとした力を止めた。



「誰?誰なの?私はこんな罪を犯してしまったわ。生きて行く資格などないのに、何故止めるの?あなたは誰?」



娘は虚空に向かって話しかけていた。


冷たく絡みついてたはずの夜風が、優しく暖かい風となって娘を包み込んでいた。



『わたしのジュリアン。生きるのです!あなたの侵した罪なら、私が代わりに罰を受けましょう。だから生きるのです』



(そう、いつも同じ事を言って私を守ってくれる)



暖かい風がゆっくりと動き、娘の髪を揺らしている。まるで優しく愛撫されるような感触が、その風から感じられた。



「だって、私は辛いわ。逃げ出してしまいたい。ローレンに嫌われてまで生きて行けないわ。もう、あの人には会えないもの。

私、手紙をもらったの。理由は知らないけれど、もう駄目かもしれない・・・。それに私、生きててもきっといつか死罪に会うわ。民衆の前に晒されて死んで行くのはいや!それならいっそ・・・・・」

『ジュリアン、思い出して。あなたは長い時を耐えてきたはず。彼に会う為に。
既にあなたの傍に彼はいるというのに、彼がいつもあなたを見つめているとのいうのに、あなたは何の為に生きてきたというの?』

「わからない・・・。あなたの言ってる言葉の意味が、私にはわからない」


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