ジュリアン・ドール
『そうね、長い間眠っていたせいか、あなたは少し混乱しているわ。でも辛い事は忘れておしまい。神に懺悔をして、そして全てを記憶の底に沈めてしまいなさい。

罰は私が代わりに受けましょう。だから思い出して。彼に出会う為に耐えてきた長い時を。

生きるのです、ジュリアン。死んでしまっては永遠に二人は結ばれません。

永遠と言うのはとても長い終わりの無い時間よ。あなたの待った七百年さえ、ほんの束の間のように思える程。しかし、あなたがこの愛を貫いたのならば、あなたはその永遠の時を、あなたの愛した人と共に過ごして行けるのです』

「七百年・・・?」


娘の耳に聞こえてくる女性の声によって、脳裏に閉ざされていた幾つもの記憶が交差し始め、その、余りにもおぞましく恐ろしい罪の記憶に娘はおののいた。


小さなナイフを握り締めて、煌めく白銀の刃を突き刺し、それが何者かの肉に突き刺さっていく感覚。あるいは、その手で肉を突き破り心臓を握り潰して殺した、その手の中の生温かい心臓の感触や血の匂いさえ生々しく。そして、断末魔の叫びも!


何もかもが、まるで真新しい記憶のように鮮明に全てを思い出した。


これまでに殺してしまった男達・・・。


こんな事、今回が初めてだった訳ではない。娘は、胸の奥に隠していた記憶の全てを取り戻して、重ね続けた数々の罪の重さに全身を震わせていた。



「そう、思い出したわ、長い時を待ったの・・・私。

何度も罪を重ねて・・・、私を縛りつける呪縛から私を解放してくれるのは、ローレン、あの人でなければいけないから・・・・・。だから私は、私自身を守るために・・・」


自分の侵した恐ろしい罪に言い訳をするように、娘は全身を震わせている己にそう言い聞かせていた。


『そう、そうしていなければあなたは汚されてしまっていた』


「会いたい、会いたいわ、あの人に!もう何百年も耐えてきたの!・・・でも、こうやって私を汚そうとする者の命を奪うことで自分の操を守りながら・・・、私の手は血の色で染まってしまっているのよ。

そんな私を彼が抱き締めてくれるはずがないわ。もう彼に愛されることが不可能なら、生きていても意味が無い。だから悲しいけれど・・・」



娘は、再び舌を噛もうとした。



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