ジュリアン・ドール
ジョウにとって、その時間は大切な時間なのだと、これまでに何度となく、そんなジョウを見て、ミサは理解していた。


その為、せっかく会いに来たのに声もかけられない。


そんな時間は、早い時はものの十分、しかし長い時は・・・・・。


ミサがこの店へ来たのは、まだ陽が高く上っていた頃だったろう。窓からは既に黄金色の夕日が斜めに差し込んでいる。



ジョウは思いついたように、パッと目を見開いた。


とたんに急いで、そこにある古ぼけた木の机の引き出しを引っ張ると、デッサン用の紙とペンをそこから取り出した。


「何か、素敵なイメ-ジが浮かんだの?」


ミサは、やっと張りつめた空気の金縛りから解放され、声をかけるのを許されたなら、優しい笑顔で、恋人のジョウへと語りかけた。



ジョウがその声にハッとして、机に向けた顔を上げると、そこらじゅうに並べられている沢山の人形たちの中で、窓から差し込む黄金色の光を背に受けて、艶やかな漆黒の髪の娘がそこに立っていた。



顔は陰りで良く見えはしないが、そこには愛しい恋人の優しい笑顔があるのが分かった。



「ミ、ミサ・・・・・」

ミサは、ジョウがやっと自分の存在に気付いてくれたのがとても嬉しかった。


「今度は、お人形、うまく作れそう?」

「あ・・・・・ああ。出来上がらなきゃわからないけどね。
いつからそこに?」



いつもの事なのだが、ジョウは仕事の事になると、自分だけの世界に入ってしまい、周りの事が全く見えなくなる癖があり、しかも、自分の恋人が向かえ来ていた事にも気付けなかった自分には、また飽きれてしまった。


まあ、そんな事は、これが初めての事ではなかったのだが・・・・・。




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