ジュリアン・ドール
「ハッハッハ・・・ハーリーは、パンの美味さに声を失ってしまったんだよ、メアリー。今度のパンはどうやら上出来だ!」

「モ・・・レンジュ・・・・・?」



パンを飲み込んだ後、ハーリーはメアリーに尋ねた。



「よく、知っているね。そうさ、ダルダ産のモレンジュの実、もぎたての物を使ったんだ。独自の甘みがあるから、砂糖はあまり使っていないからね、余り長持ちはしないから季節品になっちまうけど」

「そうか、残念だ。でも、毎年この季節の楽しみができたよ」

「そう言ってくれると有難いね。さあ、これを受け取っておくれ」


メアリーは、手にしていた籠をハーリーに差し出した。



ハーリーは驚いた。



「こ、こんなに・・・・・、申し訳ないが恥ずかしいことに、4リトルと1ペニーしか持ってないんだよ」


ハーリーは、困惑の表情でメアリーに籠を押しつけ返そうとするが、メアリーはそれを拒んだ。


「お金のことは気にしないで、お代は頂かないよ、今日くらいご馳走させておくれ、ねえあんた」

「ああ、そうとも。焼きたてのパンは帰ってすぐに。他は、夜仕事に行く前に。それから明日の分も。固いパンは十日くらいは長持ちするから、しばらくは毎日“メアリーのパン”が食えるだろう」



メアリーの言葉に、エヴィも笑いながら答えてくれた。実際現実では、その日その日どうやって食べて行こうかと、金銭的に困り果てていた所だったハーリーは、快く好意を受け取ることにした。


「ありがとう、メアリー、エヴィ」


そう言いながらハーリーは、メアリーに押しつけられていたパンの籠を、しっかりと受け取った。


「さあ、そろそろだよ。街中が昼休みの時間になるよ。あんた、どんどんパンを焼いておくれ。昨日から新しいパンが出ることを予告していたから、今日はいつもの倍忙しくなるからね」

「よし、きた!そう言うことだ、ハーリー、また顔を出しておくれよ」


エヴィは、白い調理帽を深々と被り直すと、急いで厨房へと入って行った。
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