ジュリアン・ドール
しかし、彼奴はジュリアンを忘れてなどいない。
・・・・・深い深い記憶の底ではー。
それなのに、運命は狂った儘、今生でも彼を縛りつけている。
「フッ・・・・・、そう言う私も人のことは言えまい・・・・・」
ハーリーは独り言を言った。
そう言う自分も、奇跡の出会いを信じ、今迄記憶が命令する儘に、昔、王家を捨てて隣国の親友の家に住み込んで働いていたミューシャンの館、今は会員制のレストラン“舞踏会”で働き、名前さえ昔の名を名乗って生活している。
「自分だって前世に縛られてるじゃないか。」
その時代の母親が魔女だったせいか、ほんの少しの不思議な能力、運命を透視する力と前世の記憶を備え、この時代に転生してきてしまった彼は、幸か不幸か?偶然働いた、この“舞踏会”で、ここにいればいつか、昔愛した人達に出会える。と、先見の力によって知らされ、そこに通い続けていた。
そして過去の記憶で、その時代に愛した女性を忘れられないで、ハーリーは未だ独り、花嫁も向かえられずにいる。
運命が回りだす時が来ることを、彼は知っていたはずだったが、いざ本当に回りだすと、驚きさえ感じたが・・・、色々な思いが頭を駆け巡るが、どうやら空腹は思考能力も消失させてしまうらしい。ハーリーの腹が、ひもじさを訴えるような音を立てた。
「そうだ、こんなにゆっくり歩いては、パンが冷めてしまう」
ハーリーはそう言いながら、行儀悪いのを承知の上、手に持った籠の中から、先程のモレンジュのジャムを練りこんでフルーティで香ばしい香りをした焼きたてのパンを一つ取り出し、キョロキョロと周囲の目を気にしながらも、決心をすると『いただきます、メアリー』と、心の中でメアリーに感謝し、まだ暖かいパンに食らいついた。
口の中ではパンの味とモレンジュのジャムの味がジュワーっと広がって、顔中の筋肉が緩んでしまうほどにトロけてしまう。ふと、ガラス窓に写る自分の姿が、情けなく思えたが、そんな恥ずかしささえ、このパンの美味さで沸き出す食欲に掻き消されてしまう。
「う~、美味い!」
ハーリーは、思わず口一杯にパンを押し込み、本当に腹が好いていたのを、あらためて自覚した。
その時!
「うっ!」
頬張ったパンが喉につっかえ、慌ててハーリーは、拳で胸を叩いた。
この歳で、こんなぶざまな格好を曝し、すれ違いざまに笑われている、顔も知らない娘達の黄色い声が耳につく。
「ゴホン・・・ゴホン・・・・・。やれやれ、いい恥曝しだ」
ハーリーは顔を隠すように伏せながら歩くと、再び通りすがりの窓ガラスには情けない自分の姿が映し出されている。・・・・・そして、その向こうに彼が見たのは・・・・・。
「・・・・・!」
ハッと振り向くと、道路の反対側を一人の花束を抱えた娘が歩いている。
一瞬、誰かによく似ていると思って、彼は反射的に振り向いていた。
・・・・・深い深い記憶の底ではー。
それなのに、運命は狂った儘、今生でも彼を縛りつけている。
「フッ・・・・・、そう言う私も人のことは言えまい・・・・・」
ハーリーは独り言を言った。
そう言う自分も、奇跡の出会いを信じ、今迄記憶が命令する儘に、昔、王家を捨てて隣国の親友の家に住み込んで働いていたミューシャンの館、今は会員制のレストラン“舞踏会”で働き、名前さえ昔の名を名乗って生活している。
「自分だって前世に縛られてるじゃないか。」
その時代の母親が魔女だったせいか、ほんの少しの不思議な能力、運命を透視する力と前世の記憶を備え、この時代に転生してきてしまった彼は、幸か不幸か?偶然働いた、この“舞踏会”で、ここにいればいつか、昔愛した人達に出会える。と、先見の力によって知らされ、そこに通い続けていた。
そして過去の記憶で、その時代に愛した女性を忘れられないで、ハーリーは未だ独り、花嫁も向かえられずにいる。
運命が回りだす時が来ることを、彼は知っていたはずだったが、いざ本当に回りだすと、驚きさえ感じたが・・・、色々な思いが頭を駆け巡るが、どうやら空腹は思考能力も消失させてしまうらしい。ハーリーの腹が、ひもじさを訴えるような音を立てた。
「そうだ、こんなにゆっくり歩いては、パンが冷めてしまう」
ハーリーはそう言いながら、行儀悪いのを承知の上、手に持った籠の中から、先程のモレンジュのジャムを練りこんでフルーティで香ばしい香りをした焼きたてのパンを一つ取り出し、キョロキョロと周囲の目を気にしながらも、決心をすると『いただきます、メアリー』と、心の中でメアリーに感謝し、まだ暖かいパンに食らいついた。
口の中ではパンの味とモレンジュのジャムの味がジュワーっと広がって、顔中の筋肉が緩んでしまうほどにトロけてしまう。ふと、ガラス窓に写る自分の姿が、情けなく思えたが、そんな恥ずかしささえ、このパンの美味さで沸き出す食欲に掻き消されてしまう。
「う~、美味い!」
ハーリーは、思わず口一杯にパンを押し込み、本当に腹が好いていたのを、あらためて自覚した。
その時!
「うっ!」
頬張ったパンが喉につっかえ、慌ててハーリーは、拳で胸を叩いた。
この歳で、こんなぶざまな格好を曝し、すれ違いざまに笑われている、顔も知らない娘達の黄色い声が耳につく。
「ゴホン・・・ゴホン・・・・・。やれやれ、いい恥曝しだ」
ハーリーは顔を隠すように伏せながら歩くと、再び通りすがりの窓ガラスには情けない自分の姿が映し出されている。・・・・・そして、その向こうに彼が見たのは・・・・・。
「・・・・・!」
ハッと振り向くと、道路の反対側を一人の花束を抱えた娘が歩いている。
一瞬、誰かによく似ていると思って、彼は反射的に振り向いていた。