ジュリアン・ドール

彼女もまた、すれ違う人々の視線を受けている。なぜなら、その娘は大きな花束を胸に抱えていて、ハーリーからは距離が離れてはいるが、美しい紫色をしていて、それは今の時季に珍しく美しく咲かせたソ－プリリアの花束だと分かった。


それと、今時の時代には不釣り合いな丈の長い派手な真紅の衣装を着ていて、そのドレスの紅は、どうやっても視線からは逃れられないほどに目立っていたから。


“舞踏会”へ、向かっているのだろうか？


としか考えられない身なりなのだが･････、普通であれば、その場で着替えをするだろう。現代ではあそこは貸衣装で思い思いのドレスを選んで着ることが出来るようになっていて、自分のドレスを持参して来る客は殆ど少ない。

VIP会員の中には年中部屋を貸し切って別荘がわりにしている大富豪もいれば、更にその中にはスイートルームを貸し切っている大富豪もいるにはいるが、大抵は貸衣装で更衣室利用。何もわざわざ、こんな格好で街をうろつくような事は普通ならばあるはずがない。


それに･･･、それにしては、髪が美しく飾られてはいないし、遠目で見ても･････衣装も汚れきっている。なぜあんな格好を？

汚れてボロボロな姿なのに、何故か浮浪者ではないように見える。遠目でも分かる見事な金色の長い髪。真紅のドレスがよく似合っていて、そう、まるで……、私のジュリアンのようだ。


ハーリーは、立ち尽くしたまま固唾を飲んで目を凝らした。


昨日の今日だ。こんな事があっても不思議ではない。だって、余りにもあの娘はジュリアンに似すぎている。いや、彼女に違いない！


「なんて･･･ことだろう！。昨日といい、今日といい･･･、こんな事が立て続けに起こるなんて！本当に運命の歯車が回りだしたのか！？」


この世に二人と見た事がない、あの美しい黄金色の長い髪。鮮明に甦る美しい女性の記憶。そう、見間違える筈がない。美しいジュリアン、私の妹！



なぜ、こんな所に？彼女は、ダルダの“あの店”にいるはず。･････誰だ？彼女を“買った”のは？


ハーリーの足は、無意識に歩き出した。


娘は、対角線上に交差点を渡ろうとしている。

目の前の道路を渡れば、間違いなく彼女はそこに来る。しかし、手旗で安全を知らせる、保安員が、ハーリーの行く手を遮った。


ハーリーは遠くから馬車がものすごい勢いで駆けて来るのに気が付いた。