ジュリアン・ドール

（ここは･･･どこだろう？）

体中が痛くて･･･足も、動かそうと思っても痛くて動かない。

（足…、私、足に怪我をしている？これは傷の痛み？）

ゆっくりと娘が眸を開いた時、その目に見えたものは･･･？

（汚い天井･･･。狭い部屋･･･。息苦しい所だわ。･･･いったい何故、私はこんな所にいるの？）

娘はしばらく考えていたが、どうしても思い出せない。



ガチャッ。


部屋の向こうで扉を開ける音がした。そして、台所で水を流す音が聞こえる。水を流す音が止まり･･･、ゆっくりと足音が近付いて来る。


足音が部屋の前で止まり、部屋の扉が開けられた。その足音は部屋へ上がり、近付いて来る。


足元でタオルをしぼる冷ややかな水の音が聞こえて、足を捕まえられたが、しかし足は自由に動かなくて抵抗はできなかった。


（冷たい！）


捕まえられた足は水の中に入れられ、その冷たい水の中で柔らかい布地の感触が分かる。布地の柔らかい感触が、そっと優しく足を包み込み、足を拭いている。


（私の足を洗ってるの？･･･貴方は誰？）



たぶん、女ではない。しかし、もはや逃げられもしない状態だと言うのに、襲いかかる邪心さえ感じられない。


（何故、私はこんなに安心しきっているのだろう･･･？水が気持ちいい）



優しい手は何度も何度も繰り返し、冷たい水の中で汚れた足を柔らかい布地で拭き取り、水が汚れたなら、また新しい水替えて来て、そしてまた洗ってくれる。


今度は乾いた布地が足を包み、足は奇麗になったとわかる。そして、足下で優しい手の男は、何をしているのだろう？


辺りに異臭が立ち籠めてきた。


（薬の･･･匂い？）


　そう思った瞬間、娘は声を上げた。


「痛っ！」


「すまない。気付いてしまったようだね。今手当ては済むから、もう少し耐えてくれ」


優しい手の男の声が聞こえた。


娘は、確かにこの声はよく知っている声だと思うが、しかし、その声はよく聞き慣れた声に比べ、そう若くはないようにも聞こえる。よく聞き慣れているはずのその声が、何故だか不思議と懐かしく感じ、まだ朧げな記憶の中で、彼を自分の兄、ハーリーと確信していた。