ジュリアン・ドール
「ハーリー、何故こんな所にいるの?」


 娘は確認もせずに、彼に話しかけた。


「おや、嬉しいね。私が誰だか分かってくれるなんて」

「何を言ってるの?ねぇ、ここはどこ?私は何故ここにいるの?」



 娘は、身体中の痛みをこらえながら、やっとの思いで半身を起こした。



「痛・・・・・」

「ほら、無理しないで!」

「大丈夫・・・・・」



娘が起き上がると、ハーリーが足下で傷の手当てをしている。怪我を負い、ひどく痛む自分の足に、白い包帯を手際よく巻いていた。


何かが違う光景だった。



(私の知っているハーリーではない。うつむいた横顔しか見えないけれど、髪も、眸も、それに、こんなに老けている人が、二つ年上の私の義兄だなんて・・・・・。でも、この人は確かにハーリー・・・・・)



娘は、混乱していた。


とりあえず、状況を把握しなければ。と、何とか冷静になろうと努力し、娘はハーリーに尋ねた。


「ここは、どこ?」

「私の部屋だ」


ハーリーは、言葉を最小限に返事を返した。


「なぜ?なぜ、こんな狭苦しい所に住んでいるの?」

「・・・・・」


 ハーリーは何も答えずに黙って傷の手当てをしている。


「ここは・・・、ダルタ-ニ?」

「いや・・・・・」

「では、ベルシナ?」

「そうだ」

「ハーリー、・・・どうなさったの?」

「・・・・・」


ハーリーは再び返事を返さず、黙々と傷の手当てをしている。


「私、なぜ、怪我をしているの?」

「それは、こっちが聞きたいよ」


言葉少ななハーリーの応えに、理解し難いこの状況。まるで、おかしな夢を見ているかのような情景だ。


娘はただならぬ不安に襲われた。


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