ジュリアン・ドール
そんないわく付きの伝説の人形。

ダルダにある、以前は彼女の実家だった“元ダルターニの離宮”で見つけた姫君の人形は、確かにジュリアンだった。


君は、エルミラーラに強いられた呪縛を解くための“その身を主人に捧げる事”を実現しないまま、その身を守り続け、今も人形のまま・・・・・、先祖代々あの家に守られて来たんだよ。


それと一緒に残されていた言い伝えは、人形を引き取った家での数々の事故。主人の死。殺人事件。たぶん、ジュリアンは、恋人以外に身体を許す事はできず、自分に襲いかかるあらゆる主人を死に至らしめ、その操を守り抜いて来たのだろう。


生まれ変わった今生の私がまだ幼い頃、大切な家族を失った大きな事故のせいで、私は前世の記憶を思い出したが、その記憶は幾つもの断片で、その記憶を確かなものにする為に記憶の命ずるまま、かつてのダルタ-ニ王国を訪れたり、ジュリアンの住んでいたダルターニの離宮、“人形店・ジュリアンドール”へ行ったりして記憶のパズルを組み立てて全てを思い出して行った。


初めて、人形にされたままの姿の君に出会った時、私は、店の主人に頼み込み、人形を譲ってくれと頭を下げたが、まだ私は幼かったからか?全く相手にされずに、断られてしまった。


それから何度となくあの店に通い続け、ある日、店の主人に真実を語った。


『私は、ダルタ-ニ王国の第一王子の生まれ変わり。今生では家族を失い、悲しみの涙を拭ったハンカチさえ乾いていない時に、かつての妹に出会ってしまった。

この人形は、魔の力によってこのような姿にかえられた姫君なのだから、私にとっては今は唯一の私の肉親のようなもの。残された遺産の全てと引き替えにしてもいい、この人形を譲ってほしい』と。


半信半疑の顔で店主は私の話を聞いていた。


『……私は知っています。この家に残された、人形の言い伝えを。
人形の買い手の周りで起こる事件は、全て、一時呪縛から解き放たれたジュリアンが起こしたものです。しかし、もしもこの人形を私が引き取っても、私は死にはしません。私はジュリアンを妹として愛していますから、私が彼女を罪の手から守り、幸せにしたいのです』と――。


店の主人は、私の言う事が真実か本当に信じていたかは分からない。しかし、こう答えてくれた。

< 95 / 155 >

この作品をシェア

pagetop